Colosseo, Public domain, via Wikimedia Commons

コロッセオが剣闘士や猛獣の試合のための利用された施設であることは有名ですが、芸術的な側面から見た建物の重要性は実はあまり知られていません。この記事ではローマで美術史を専攻している筆者がコロッセオの特徴を解説します!

コロッセオは紀元後80年に完成した円形闘技場

Panoramic photograph of interior of Colosseum, Public domain, via Wikimedia Commons

コロッセオはローマ皇帝ヴェスパシアヌス帝が紀元後71-72年に建設が開始し、ティトゥス帝が80年に完成した円形闘技場です。続くドミティアヌス帝が90年にさらに改良を加え、現在の姿に至ります。

全体は長径187.5m×短径156.5mの楕円形をしており、「アリーナ」と呼ばれるステージ部分だけでも86×54mの巨大さです。当時はおもに剣闘士試合をおこなうために建設されたため、アリーナの周りに5〜8万人の観客を収容するためのスペースがありました。

「コロッセオ」という呼び名は中世から使用され始めたもので、語源は「巨大な」という意味の言葉であるという説や、闘技場のすぐ外に設置されていたネロの巨像に由来する説があります。

すでにほとんどのスペースが重要な建物で埋め尽くされていたため、当時これだけ大きい建造物をローマの中心地に作ることは簡単ではありませんでした。しかし皇帝ヴェスパシアヌス帝は、ネロ帝の黄金宮殿(ドムス・アウレア)の一部であった人口湖の土地を利用することで、この問題を解決しました。

ヴェスパシアヌス帝は貴族や民衆からの支持を集めるための政策を重要視しており、その一環として娯楽を提供するための施設コロッセオの建設に踏み切ったのでした。

コロッセオの設備にはエレベーターや給水システムも?

Sec part of Flavian amphitheatre, Public domain, via Wikimedia Commons

コロッセオの建築の基礎は、厚さ約13mの大きなトラバーチンの台座で構成されています。トラバーチンはイタリア産の石灰質の化学沈殿岩で、模様が特徴的なため建築用や装飾用によく用いられる石材です。

外壁の支柱の部分はトラバーチン、それ以外はレンガの壁に覆われています。コロッセオの内部は、アリーナ(ステージ部分)から外側の外壁の頂上に向かって斜めに観客席がある構造です。社会階級に応じて試合を観覧できる席が区切られていました。

アリーナの下には動物や剣闘士が移動したり控えたりするためのスペースがあります。スムーズに動物や剣闘士をアリーナに送り出すために、エレベーターもありました。

また、真夏でも観客が快適に試合観戦をするために、天上部分には巨大な日よけが設置されていました(現在は失われている)。内部には複雑な給水システムがあり、噴水から水が供給されたそうです。皇帝が民衆のためを想って建てた設備ということが、よくわかりますね。

紀元後1世紀にすでに複雑な建築設備があったことは驚きですが、これだけ巨大で強靭な建造物を作るスキルがあったと考えれば…そこまで不思議ではないのかもしれません。

コロッセオの芸術的特徴は階ごとの柱のデザイン!

Roman Colosseum, Public domain, via Wikimedia Commons

コロッセオはインフラ技術にばかり注目されますが、芸術の面でも興味深いポイントがあります。コロッセオの柱のデザインは、古代ローマの芸術の洗練された特徴が集まった好例であり、見れば見るほど美しい構造です。

とくに注目したいポイントは、外壁から見える半円柱の柱頭デザインです。「半円柱」とは半分だけ壁から飛び出している部分(コロッセオの場合アーチとアーチの間)を指します。「柱頭」とは柱の上の部分の装飾を指す言葉です。

古代ギリシャには一般的に「ドーリア式」「イオニア式」「コリント式」と呼ばれる3つのデザインがありました。古代ローマの芸術は原則的にはこれらの3つの装飾をギリシャから引き継ぎ、伝統的な建造物に用いています。

Order, Public domain, via Wikimedia Commons

コロッセオは外から見るとアーチが横に並んでいる帯が3層あり、それぞれのアーチの間に半円柱があります。これらの半円柱の柱頭をよく観察すると、階ごとに異なる柱頭デザインが採用されているとわかりますね。

1階部分はもっともシンプルなドーリア式、2階はイオニア式、3階はコリント式です。細かいポイントなのでよく観察しないと見逃してしまいそうですが、ここに古代ローマの洗練された美意識が反映されています。

コロッセオのように階ごとに異なる柱頭を用いている建物は、実はローマのいたることころで見つかります(近代的なものも含む)。「神は細部に宿る」という言葉があるように、このような小さな芸術的なこだわりが厳かで誇り高いコロッセオの姿を作っているのですね。

この記事がコロッセオの建築を理解する助けになれば幸いです。以上、コロッセオの芸術的な特徴についてでした!