ビジネスを進める中で、誰しも一度は相談をしたことがあると思います。相談してうまくいったこともあれば、「もっと自分の考えを整理してから相談しろ!」と上司から言われたり、期待していた回答が得られず「時間の無駄だった……」とがっかりしたりした経験がある方も多いのではないでしょうか。

 うまく使いこなせれば相談の効果は大きいのですが、このような経験があると相談することに萎縮したり躊躇(ちゅうちょ)したりするケースも少なくありません。そこで今回は、多くの方から質問を頂く“相談相手の選び方”についてお伝えします。

●大事なのは「どのタイミングで」「誰に相談するのか」

 相談相手を選ぶポイントは、「どのタイミングで」「誰に相談するのか」です。もちろん相談相手の「相談に乗る姿勢」や「フィードバック力」も大事ですが、はっきり言って他者は変えられません。自分自身が相手の力を引き出す相談ができれば、自分のためになるはずです。

「見立て」「仮説」「計画」それぞれのタイミングで相談相手を変える必要があります。

 まずは「気軽に相談できる人」とはどんな人か? 分かりやすく言えば、無条件で時間をとって聞いてくれる人です。「ちょっと相談したいんですけど」と伝えた時に相談内容を聞かずに「もちろん、いいよ」と答えてくれる人のイメージです。

 考えを整理できていない見立ての段階では、相手にうまく説明できないことが多いため、話しながら自分の考えを整理するぐらいの気持ちで相談できる「気軽な相手」がおすすめです。相談相手を絞らずに、できるだけ多くの人さまざまな属性の人に相談し、多様な見方を知ることが良いと思います。

●専門性の高い人は“2種類”存在する

 見立ての精度が上がり、アイデアのプロトタイプを実際に試したり想定顧客に直接聞いたりするなど、一度でも検証している仮説段階へと進むと特定分野の専門的な知識や深い経験を求められることが増えます。

 この段階で相談すべきなのは、「専門性の高い人」です。注意点としては、専門性の高い人には大きく2種類いるという点です。専門性の高い人と聞くと多くの人が、その分野の第一人者や大学教授、著名なコンサルタントなど、それなりの権威や肩書を持つ、いわゆる「専門家」を思い浮かべるかもしれません。しかし、同じ専門性の高い人でも「実践知が豊富な人」と「見識が広い人」では得意分野が全く違います。

 実践知が豊富な人は、プロジェクトや事業を前に進めるために自ら仮説、検証を繰り返し、実践を通じて知識を深めてきた人です。その人ならではの一次情報を大量に持っています。行き詰まっていたプロジェクトを前進させてくれるような、手触り感のあるアイデアやアドバイスがもらえるはずです。

 見識が広い人とは、修士号や博士号を持っている人、大学教授などのいわゆる研究職に携わっている人、多様な企業と接点を持つコンサルタントなどが当てはまります。専門領域における先進的な事例や社会の流れだけにとどまらず、幅広い見識と網羅的な視点を持っています。それ故、相談すると多様なケースを共有してくれたり、時流に沿ったフレームワークを教えてくれたりします。

 大ざっぱに言えば、ネクストアクションが見えなくなったら実践知が豊富な人を相談相手に選んでください。なお、実践知が豊富な人の中には、相談しに来た人が「どこまで行動しているのか?」を見て本気度を探る、という人も多いので、自分なりに検証時に得た一次情報をしっかり伝えるよう心掛けましょう。

 一方、自分たちが進めている事業やプロジェクトが、社会やマーケットから見てどんな価値や意義があるのか? など、目の前の事に集中し過ぎて視野が狭くなっているタイミングでは、見識が広い人を相談相手に選ぶと良いと思います。

 自分が見えていない選択肢を確認できるため、社会全体の視点を得られ、説得力が増し、相手に伝わりやすくなるはずです。

●「多面的に見てくれる人」に相談する重要性

 相談相手の力を引き出しながら事業やプロジェクトを進めると、構想だったのものに具体性が生まれ、実現の可能性が見えてきます。

 この計画の段階で選ぶべき相談相手は、ずばり「多面的に見てくれる人」です。一言で言うと“批判的な目で見てくれる共感者”です。ちょっと分かりづらいと思うので、どんな人かイメージが湧くように、私自身が「多面的に見てくれる人」に相談した事例を紹介します。

 私が、地方創生に関わる事業に関して相談したときのことです。仮説検証を重ねて「いよいよ、これでいけるはずだ」という計画段階でした。ところがその人は、全体像を見た上で「サービスは良いと思うけど、実行することによって困る人もいるんじゃない?」と指摘をくれました。

 その事業は、地域外から若い人を呼び込み、地域での雇用創出や一次産業との連携によって、まちの経済を活性化させるというものです。私自身は良いサービスだと思っていました。そのため、「困る人もいるんじゃない?」という指摘に強い衝撃を受けました。

 相談相手は続けて言いました。「人が増えて経済が活性化すると土地の価格が上がるでしょう。そうすると固定資産税が上がる。その地域に住み続けようと思っている人は困るんじゃない? 若い人が増えるということは、夜に騒いでうるさくなる可能性もある。もともと住んでいて、静かに暮らしたいと願う人にとっては暮らしにくくなる側面もあるよね」とズバリと指摘され、自分のサービスによって喜ぶ人のことだけ考えていたことに気付かされました。

 自分が良いと思ったサービスでも、反対側には困る人がいる――。設定した「顧客」以外にも意識を向ける重要性をこの相談をきっかけに再認識し、私自身今でも大切にしています。

●大切にしたい信頼性

 最後にお伝えする相談相手は「相談のための相談ができる人」です。これは「見立て」「仮説」「計画」どの段階でも共通して良き相談相手になります。

 どんな人かと言うと、業界や業種を問わずにさまざまな人とつながっている“ハブ”のような人です。この人に聞けば直接相談にも乗ってくれますし、他に適切な相談相手がいればつないでくれます。

 ただ、「相談のための相談」にはパラドックスがあります。それは、紹介をしてもらうことを目的とするとうまくいかないという点です。納期が迫っていたり、ネクストアクションが見つからずに焦ったりしていると「〇〇を紹介してください!」「誰か紹介してくれませんか?」と言いがちです。それだとうまくいきません。

 相談のための相談ができる人は、人と人とのハブ役ですが、紹介する側とされる側の信頼がないとハブ役にはなれません。またそのような人は、人と人をつないで終わりではなく、そこから新しい化学反応が起きる事に喜びを感じる場合があります。

 そのためまずは相談のための相談ができる人としっかり向き合うことが大切です。相談相手に共感が生まれて「この人を応援したい」という気持ちが芽生えれば、適任者を紹介してくれるでしょう。つまり紹介を相手に委ねることが、この相談相手の力を最大限引き出せる秘訣です。

 いかがでしたか。相談相手の力を引き出せれば、相談する側にとっても相談される側にとっても、相談は良い時間になります。そうすると、相手はまた次も相談にのってくれやすくなります。このサイクルが回ると、応援しあえる関係の相手が増えていく好循環が生まれます。ぜひ1つでも試してもらえるとうれしいです。

●相談Q&A

Q:相談相手がいません……。どうすれば見つかるでしょうか?

A:相談相手がパッと思い浮かばない場合には、友達でも社内の同僚でも身近な人にまず相談してみてください。うまく相談することが重要なのではなく、ネクストアクションを1つでも見つけることが大事だからです。

 その人からは適切な回答がなくても、誰かを紹介してくれるかもしれません。興味関心に合うイベントに誘われるかもしれません。仮に相談相手の選び方を間違っていたとしても、今回の経験を踏まえて次は誰に相談すべきかが分かるかもしれません。

 いずれにせよ、相談しないよりはした方がネクストアクションの選択肢が増えるはずです。「うまく相談しないと」という思い込みを外して、まずは身近な人に相談する習慣を加えると、少しずつですが着実に相談相手が増えていくはずです。

著者:トイトマ 代表取締役社長 山中哲男