シャープが、5月8日にスマートフォンのハイエンドモデルとして「AQUOS R9」と、エントリーモデルの「AQUOS wish4」を同時に発表した。アナウンスのあったSIMフリーモデルの想定価格は、AQUOS R9が10万円前後(税込み、以下同)で、AQUOS wish4が3万円台前半だ。今回は、AQUOS R9で進化したポイントをまとめる。

●AQUOS R9はスピーカーを強化、生成AIで留守録を要約する機能も

 シャープといえばディスプレイが強みで、技術力はテレビだけでなく、スマートフォンでも発揮される。ディスプレイの「明るさを追求した」と通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 係長の篠宮大樹氏がアピールした、ハイエンドモデル「AQUOS R9」では視認性に力を入れ、スペックでは表現しづらい体験を重視している。

 ただ、「一口に明るさといっても、点の明るさと、面の明るさがあり、それぞれに役割がある」(篠宮氏)という。点の明るさとは文字通り「部分的に明暗差をつける」(篠宮氏)ことを指しており、HDR動画で効果を発揮する。面の明るさは「画面全体を強く光らせる」(同氏)という意味で、「くっきりとした美しさだけでなく、屋外や窓際の強い日差しの下でも、圧倒的に見やすい表示に」(同氏)なるようにしたという。

 ディスプレイは6.5型のフルHD+(1080×2340ピクセル)のPro IGZO OLEDであり、リフレッシュレートは1〜240Hzの可変駆動に対応している。

 音質についても強化した。通信事業本部 本部長の小林繁氏いわく、「海外では日本と違って、電車内でもスマートフォンのスピーカーで音楽を再生する人がいる」とのことで、「スマートフォンAQUOS史上最大サイズのボックススピーカーを採用した」(篠宮氏)ことがポイントだ。スピーカーは受話口の部分と口元の部分に配置したことで、従来モデルよりステレオ感が増しているという。篠宮氏は「少し離れた場所で料理や家事をしながら、AQUOS R9のスピーカーで音を聞いても、その迫力を感じられる」と自信を見せる。

 音に関してもう1つアップデートがある。それはスマートフォンの基本機能の1つである電話だ。昨今のトレンドでもある生成AIが、AQUOS R9にも実装されたことで、留守番電話に録音された内容をAIが要約し、利用者が要件を一目で確認できるようになった。

 この留守番電話は通信キャリアが提供している留守番電話サービスではなく、端末内に備わる簡易的な伝言メモのような機能だという。AQUOS R9では電話を受けたり、大手通信キャリアの留守番電話サービスセンサーへ接続したりせずに、電話をかけてきた相手の発話内容が要約される。

 なお、留守番電話の内容要約はプロセッサにオンデバイスの生成AIをサポートする「Snapdragon 7+ Gen 3」を採用したからこそ実現した機能で、もっといえば同プロセッサが対応する大規模言語モデル(LLM)の「Llama 2」によって成り立つ。処理は「端末内で完結できる」(通信事業本部 パーソナル通信事業部 事業部長の中江優晃氏)ため、プライバシーに配慮された仕様となっている。

 一方で、中江氏は「発表時点でお約束はできない」としつつも、「お客さまにとって価値があれば、生成AIを用いた機能の拡充はあり得る」との考えを示しており、「まったく進化しない、という意味ではない」と補足した。

●カメラは光学式手ブレ補正に対応、被写体の追尾もスマートに

 カメラ機能も拡張し、AQUOS R9では光学式手ブレ補正に対応した。また、被写体が柱などの障害物に隠れてしまっても、AIが被写体の動きを予測して追尾することも可能になった。

 他にも、スマートフォンAQUOSとして初めて「ナイト動画」を撮影できるようになり、暗所でも明るく撮影できるようになったことに加え、背景のぼかし具合を調整して、被写体を強調した映画さながらの「シネマティック動画」も撮影可能になった。

 これらの撮影体験を支えるアウトカメラは、標準カメラと広角カメラで構成される。どちらも有効約5030万画素だが、標準カメラはF1.9で画角が84度のレンズ、広角カメラはF2.2で画角が122度のレンズを採用する。インカメラは、有効約5030万画素でF値が2.2、画角が84度のレンズを搭載。ライカが監修しているが、イメージセンサーのサイズは「AQUOS R8」「AQUOS sense7」と同じ1/1.55型で、レンズは「Hektor(ヘクトール)」を採用している。

 ゲーミング関連機能も強化し、スマートフォンAQUOSとして初めて「ベイパーチャンバー」を採用した。長時間の動画撮影やプロセッサに負荷のかかる作業をする際、安定したパフォーマンスを期待できる。「いつでも心地よいパフォーマンスで、心弾む映像体験を届ける」(篠宮氏)ことを目指した。

●日本ならではのよさを発信すべく、デザインを刷新

 ボディーのデザインも見直し、見たときの印象が大幅に変わった。AQUOS R8と「AQUOS R8 pro」は背面の上部に大きなカメラレンズがあるが、AQUOS R9では本体上部の左上の台座にカメラ、AQUOS、LEICAのロゴが収められている。この台座は「円でも楕円(だえん)でもない自由曲線」(中江氏)になっており、「カメラもそろいすぎない絶妙な配置」とした。「品位のあるいでたちの中に、なぜか気になる違和感」(同氏)によって、愛着を持ってもらうことを目指した。

 カメラとその台座はAQUOS R9の顔ともいえる部分になりそうだが、1986年に劇場で公開されたスタジオジブリ制作アニメの「天空の城ラピュタ」に登場する「ロボット兵」の顔に似ており、この一風変わったデザインがユーザーに受け入れられるのかが気になる。

 デザインの監修を担当したのは、三宅一成氏が設立したデザイン事務所「miyake design」だ。AQUOS R9はグローバル(詳細は後述)でも同時に発売することから、「日本ならではのよさをどのように発信していくのか」をmiyake designと追求した。

●最上位の“proなしではない”が、今回発表に至らなかったワケ

 今回の発表で異例だったのは、AQUOS R9がキャリア/オープン市場向けモデルであり、グローバルを意識したモデルでもあることだ。「商品開発の段階からかなりグローバルで売ることを意識している」(篠宮氏)というAQUOS R9。発表会の説明は販売国の内容が最初だったように、シャープが「展開」についてもこれまで以上に力を入れていることがうかがえる。

 これまではシャープが新商品を発表してからグローバルで展開するまでにタイムラグがあったが、「できるだけ早くグローバル展開していきたい」(小林氏)という考えから、グローバル展開の同時発表に至ったという。

 理由について、小林氏は「日本以外で販売したグローバルの販売台数が、前年比に比べて倍増している」ことを挙げる。販売国については、これまでの日本、台湾、インドに加え、シンガポールが決まっているという。篠宮氏は「最初にかなり覚悟を決めてやらなければ設計上難しいところはあるが、グローバルスタンダードで受け入れられる仕様とすることを前提に、当初から目標を決めて製品を企画、設計した」と語る。

 一方で気になるのは「pro」の存在だ。シャープは2023年、AQUOS R8(ドコモ向けモデルは12万4850円)だけでなく、その上位モデルとなるAQUOS R8 pro(一括価格はドコモ向けモデルが20万9000円で、ソフトバンク向けモデルが15万5520円)も投入していたが、中江氏は「proシリーズはやめてない」とし、小林氏が「今期は投入しない」と補足した。

 投入か否かについては「為替などの経済状況を見て判断している」(小林氏)そうだ。加えて、「お客さまが購入できる(手を出せる)金額」(同氏)に限度があることから、シャープとしては毎年、ハイエンドモデルを2モデルに分ける発想を維持しづらいのだろう。

 円安の影響や性能競争の激化によるコスト増大が端末価格に反映されやすくなっている他、スマートフォンの買い換えサイクルが4年と長寿化している現状、短いサイクルでproモデルが絶対に必要か? と問われると、誰もが首を縦に振れないはずだ。AQUOS R9は昨今のハイエンドスマホとしては安価といえる10万円前後の価格を実現したが、“proなし”がどう影響するかは気になるところだ。

 小林氏は「総合的に考える必要があるなと思うし、(世に送り出す)タイミングもあるので、しっかりよく考えてから出していきたい」としている。