大規模な移民や難民、低迷する経済、ポピュリズムはもちろんのこと、EU離脱をめぐるイギリスの国民投票の結果や、ドナルド・トランプのアメリカ大統領当選、オルバーン・ヴィクトルのハンガリー首相就任にいたるまで、ニュースの見出しを独占するような大きな出来事はいずれも、その背景にある大きな人口動態を知らなければ理解できない[1]

[1] Morland, Paul, The Human Tide: How Population Shaped the Modern World, John Murray, 2019.(ポール・モーランド『人口で語る世界史』渡会圭子訳、文藝春秋、2019/2023年)

 人口動態は決定的で避けようのないものとまでは言えないが、その動きは強く、かつ速い。かつてヨーロッパは人口流出が著しかったが、今では人口流入が著しい。また人口の大半が若者という若い地域だったが、今では高齢化しつつある。イタリアのように子だくさんで有名だった国も、今では子供の数がかなり減っている。新生児の3人に1人が1歳の誕生日を迎えられなかった国々の乳児死亡率が、今ではわずか1000人に2人というレベルにまで改善している。人々が十分な教育を受けられなかった、あるいはまったく受けられなかった地域の識字率が、今ではかなり高くなっている。人々が飢(う)えていた地域が、今では肥満に悩んでいる。

 このように人口動態の力によって「今日の人々」は「昨日の人々」とはまったく違った状況に置かれているし、「明日の人々」も「今日の人々」とはまったく違う状況に置かれることになる。

 それにもかかわらず、人口動態が未来をどう変えていくかを理解している人はほとんどいない。そこでまず、少しでもわかりやすくするために、人口の歴史を前近代(プレモダン)、近代(モダン)、近代後(ポストモダン)の3段階に分けて考えることにしよう。どの段階がいつ、どの程度の変化として現れるかは国、地域、大陸によってさまざまだが、どの場所でも同じ段階では同じようなプロセスが見られる。人口動態に関しては、時期や速度や程度は異なるとしても、人々が歩む道は同じなのだ。

<連載ラインアップ>
■第1回 英国のEU離脱、ソ連崩壊、トランプ大統領誕生・・・人口動態が及ぼす影響とは (本稿)
■第2回 日本の幸福度は先進国の中で最低、遠因となった「低出生率の罠」とは?
■第3回 イギリスで調査、上位10%の高所得者と貧困層の平均寿命は何歳違うか?
■第4回 トランプ、サッチャーらの言動が映し出す「アイデンティティ」の複雑さとは?
■第5回 日本、イギリス、イスラエルが抱える人口動態の「トリレンマ」とは?(5月31日公開)

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(ポール・モーランド,橘 明美)