新作は日本人との“友情”の証

「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」はブラック・アートに特化した展覧会ではない。かといって民藝の展覧会でもない。ゲイツは本展についてこう話す。

「この展覧会は世界中のものづくりと職人たちを称えるものであり、私の日本での原点である常滑を祝うものでもある。ものづくりと友情を通じて、人が文化の持つ影響力の可能性に身をゆだねたときに何が起こるかを示すものだといえます」

 その言葉通り、展覧会ではゲイツと日本との“友情”を感じさせる新作が鑑賞できる。展示室の1室の床にびっしりと敷き詰められた1万4000個の煉瓦。これは《散歩道》という新作で、煉瓦は常滑市にある製陶所が本展のために制作した。足にキシリとくる踏み心地は、寺社の参道を歩く時のような厳かで神聖な気持ちを抱かせてくれる。

 壁一面に展開される《小出芳弘コレクション》は、常滑出身の陶芸家・小出芳弘(1941〜2022)が制作した約2万点の陶芸作品を用いたインスタレーション。ゲイツは小出の全作品を買い取り、作家の人生を引き受けることで、小出の陶芸作品に新たな生命と意義を与えた。それにしても作品が放つエネルギー量が半端じゃない。今回の展示にあたり、作品を4tトラック3台で運んだという。

《みんなで酒を飲もう》は、昭和の酒屋が酒を売るときに使った貧乏徳利1000本を用いたインスタレーション。徳利がずらりと並ぶ棚の前にはターンテーブルを載せたDJカウンターがあり、さらにその前では多面体のミラーボールが回る。ミラーボールはそこにいる人たちをランダムに照らし出す。思いもかけず、人と人とがつながる瞬間。このスペースではDISCOイベントなどの企画が予定されている。

 さらに会場には、長野で古材の利活用をしている山翠舎、京都の香老舗である松栄堂、宇治茶堀井七茗園、西陣織のHOSOOなどとコラボした作品も。ゲイツと日本の友情の広がりに驚かされる。

黒人カルチャーに触れる図書室

 こうした新作に加え、黒人文化を深く知る展示も用意されている。「ブラック・ライブラリー」は、ゲイツがシカゴから運んだ書籍2万冊を収めた図書室。黒人の歴史、文化、芸術、サブカルチャー……。並べられたほとんどの書籍が閲覧可能だ。

 ブラック・ライブラリーに併設された「ブラック・スペース」では、ゲイツの建築プロジェクトの中から、2009年に設立した「リビルド・ファウンデーション」の活動を紹介している。シカゴのサウス・サイド地区では、黒人は恣意的に隔離され、土地の所有や投資などの権利を与えられてこなかった。ゲイツはこの地区の廃墟となった40軒以上の建物を、誰もが自由にアートや文化活動に参加できる空間に作り変えてきた。この活動は今も続いている。

 黒人が日本の民藝と出会ったら、何が起こるのか。ある文化が他の文化に敬意を払い、時間をかけて会話を続け、愛に満ちた関係を築いたときに何が起こるのか。アフロ民藝は、異文化ハイブリッドの明るい未来を感じさせてくれる。

(川岸 徹)