プレミアリーグ発足以降はポジティヴなデータが揃っている。

優勝:13回
2位:5回
3位:3回

3連覇が2回、連覇は2回。1992/92シーズンから勇退する2012/13シーズンまでの優勝確率は、59・09%という驚異的な数字だ。トップ3を一度も外さず、自他ともに認めるプレミアリーグの盟主だった。

サー・アレックス・ファーガソン体制下のマンチェスター・ユナイテッドである。

監督に就任した1986/87シーズンは11位。翌シーズンは2位になったものの、その後は13位、8位、6位と低迷し、解任の危機にも直面した。サー・アレックス本人曰く、「2、3回はクビを覚悟したよ」。

だが、92年にエリック・カントナ、翌年はアンドレイ・カンチェルスキスの補強が奏功した。95年はデイヴィッド・ベッカム、ライアン・ギグス、ポール・スコールズなど、いわゆる “ファーギーズ・フリッジリングス”(ファーガソンのひな鳥たち)が羽ばたいた。

90年代は優勝6回。98/99シーズンはプレミアリーグとFAカップを制し、チャンピオンズリーグでも準々決勝でインテル・ミラノ、準決勝でユベントス、決勝ではバイエルンを破り、ヨーロッパの頂上にまで登りつめている。イングランド史上初のトレブルだ。

それでもサー・アレックスは「07/08シーズンのチームこそが歴代最強」と語っていた。

自由奔放に振る舞うクリスチャーノ・ロナウドを、ウェイン・ルーニーとカルロス・テベス、朴智星が献身的に支える。中盤ではマイケル・キャリックのフットボールIQと、スコールズ、ギグスの経験値が異彩を放った。

そしてDFラインは右からウェズ・ブラウン、リオ・ファーディナンド、ネマニャ・ヴィディッチ、パトリス・エブラ。GKにエドゥイン・ファン・デル・サール。なるほど、たしかに隙のない陣容だ。

07/08シーズンの後も優勝3回、2位2回。05年にユナイテッドを買収したグレイザー・ファミリーの悪政──大企業とのCM契約最優先──に悩まされつつ、サー・アレックスは長年の経験によって培われたマネジメント力を武器に、プレミアリーグのトップランクを維持していたのだが……。

デイヴィッド・モイーズはもちろん、ジョゼ・モウリーニョもルイ・ファン・ハールといった実績豊かな監督も、ユナイテッドを復活には導けなかった。ラルフ・ラングニックは「オーバーホールが必要だ」と警鐘を鳴らしながら公の席で選手を批判し、エリク・テンハフは負傷者を言い訳に使うケースが多過ぎる。

11年3月、サー・アレックスはDF登録のラファウ、ファビオ、ジョン・オシェイ、そしてレギュラーからはほど遠い存在だったダレン・ギブソンを中盤に起用し、アーセナルとのFAカップで2−0の勝利を収めている。テンハフは見苦しい。

7位、4位、5位、6位、2位、6位、3位、2位、6位、3位……。玉座が、他人に渡って久しい。近ごろは優勝争いにすら参戦できなくなってきた。かつての威光はすでに消え失せ、下部リーグから昇格してきたクラブにさえ苦戦する。

36節のクリスタルパレス戦も0−4。プレミアリーグ発足後では最悪の履歴だった13/14シーズンの12敗を更新する13敗目を喫した。公式戦の81失点は76/77シーズンに記録したワーストに並んだ。

さらに、残るアーセナル戦、ニューカッスル戦、ブライトン戦で4ポイント未満に終わった場合、21/22シーズンの勝点58(プレミアリーグ発足後ワ−スト)に届かない危険性まで浮上している。

4月29日に英国の高級紙『Telegraph』が実施した読者アンケートでは、アンソニー・マルシャル、カゼミロ、ラファエル・ヴァラン、クリスティアン・エリクセン、ドニー・ファン・デ・ベーク、アントニーは 90%以上が放出と答え、マーカス・ラシュフォードも 84%。世間の目は極めて妥当だ。

ネガティヴなデータばかりでめまいがする。テンハフ解任の日も近い。

文:粕谷秀樹