はじめに

「運動会に行きたくない…」 「運動会が嫌い」そんな言葉をお子さんが発したらどう対応しますか?

 2024年5月に「ニフティキッズ」が行ったアンケートで、「運動会や体育祭が好きか」という質問に対して、約半数の小中学生が「好き」と答えました。ただその一方、25%が「嫌い」と答えました。約4人に1人は運動会にネガティブなイメージを持っていることが調査からうかがえます。今回は子どもたちが、「運動会が嫌い。行きたくない」という場合、保護者はどのように対処すればよいのか、考えてみました。ポイントは「子どもたちに話すよりも、子どもたちと話すことが大切だ」(ハイム・ギノット)です。

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まず、子どもの気持ちを受け止めてください

 我々心理カウンセラーが気をつけていることは、次の(1)と(2)の順番です。

(1)相手の気持ちを受け止めること
(2)対応策を一緒に考えること

 特に大事なのは(1)です。気持ちを受け止めることなしに、(2)を行うと何が起きるでしょう?例えば、親からの次のような発言です。

・嫌いだなんて、言ってはいけません(善し悪しの判断)
・きっと○○なんだよね。お父さんには分かるよ(憶測による判断)
・〇〇すれば不安も解消できるよ(アドバイス)
・〇〇ちゃんも参加するんでしょ(友だちとの比較)

 これらを言われる側(子ども)からすれば、「そうじゃないんだよ…」となるのではないでしょうか。図をご覧ください。

図:筆者作成

 「嫌い」「行きたくない」「不安だ」という場合、図の左側の状態です。自分よりも気持ちの方が大きくなってしまい、不安でどうにもならない状態です。この状態にいる子どもに、善し悪しや憶測で判断をしても、それは押し付けになってしまいます。アドバイスや比較も同じです。聞く耳を持つ余裕がありません。それよりも、膨れ上がった気持ちを受け止めることです。この結果、右側の安心の状態となり、落ち着いた会話が可能となります。

 まず、「わかった」と気持ちをしっかりと受け止めてください。必要なことは、安心を取り戻すことです。

悩む子どもと家族のイメージ

正しい声かけは「なぜ?」よりも「どうしたら?」

気持ちが落ち着いた後、どうしても親としては「理由や原因」を確認したくなります。 ただ、少しお待ちください。あなたの子どもさんが「運動会行きたくない」と言っています。この場面、次のどちらの方が、子どもは答えやすいでしょう?

(1)なぜ、行きたくないの?
(2)どんな運動会だったら行ってみたい?

答えは、(2)です。(1)のように「なぜ?」と聞かれると、問い詰められたと感じる場合もあります。また、不登校のお子さんのアンケートでは、「よくわからない」という場合もあります。「答えたくない」のではなく「答えられない」ケースも多いのではないでしょうか。 (参考:【概要】不登校児童生徒の実態調査結果)

 原因の質問が詰問になったり、そもそも原因がわからないのならば、「どんな運動会なら?」と前向きになれる問いかけの方が、打開策も見つけやすくなります。出てきた打開策を、どのようにすれば実現できるのか、具体的な手順や方法を、一緒に考えてあげてください。

 もちろん、具体的な原因を教えてくれる場合もあります。その場合も、「〇〇なんでしょ」と決めつけたり、「〇〇すれば解決するよ」などのようにアドバイスをしたりするのではなく、「教えてくれてありがとう」のように、感謝の思いを伝えてください。ギュっとハグするのも効果があります。お子さんも「こんなこと、言ってもいいかな?」「怒られないかな?」のように、不安な気持ちでいっぱいな状態です。不安な思いを払拭してあげてください。なお、原因を聞く質問も、「なぜ?」ではなく「どんなところが嫌なの?」と聞く方が答えやすいです。

 例えば、「行く」と答えたとします。打開策が見つかり、何とか行けそうになったとしても、当日までに次のことも起こり得ます。

・いろいろな場面が頭をよぎり不安が増大する
・お腹など体の不調や痛みを訴えること

 前者は、出口を見つけようとグルグルと考えが巡っている状態です。この結果、心身のエネルギーは低下し、「なんとなくだるい」と、やる気や思考力の低下を招きます。後者の体の不調は「言いたいことを我慢した結果、体がそれを代弁」した結果です。どちらであっても、頭では「行くべき」と捉えていても、気持ちがついていけない状態です。前述の図の左側と言ってもいいでしょう。再度気持ちを受け止めてあげてください。その上で、「休む」ことを選択するのもOKではないでしょうか。

「参加・不参加」の二択ではなく、一部参加や見学という選択肢もあります。どれが絶対的な正解ではなく、どれも現時点での正解。このような捉え方ができるといいですよね。100点満点の正解を見つける発想が、子どもを追いつめてしまうケースもあるからです。そして大事なことは、「不安なときに誰かがいてくれる安心感」「一緒に考えてくれる安心感」この安心感を持てることが、不参加を選んだとしても、今後のお子様の成長に繋がります。

メンタルの不調のイメージ

メンタルが不調な時は「マインドフルネス」が有効

 メンタルが不調なとき、マインドフルネスが有効と言われます。不安が増したり、体が不調を訴えたりするときは、本人の意識が「いま・ここ」に居ない状態です。意識がいま・ここに居ない状態が続くと、脳は疲れます。 ※脳みそ君があっちこっちに彷徨う姿をイメージしてください。すごく疲れて泣き出してしまいそうです。

 マインドフルネスの目的は、意識を「いま・ここ」に戻すことにあります。お子様と一緒にマインドフルネスに取り組んでみてはいかがでしょう?また、このマインドフルネスの応用のゲームに、「頑張っていると言われたくないゲーム」があります。

「頑張っている」と言われたくないゲームのやり方

「とっても、頑張っているのに、これ以上言わないで欲しい」ときにお勧めです。

【用意するもの】紙とペン(または鉛筆)
【やり方】
(1)周囲から「頑張って」や「頑張っているね」と言われて、モヤモヤする気持ちになる場面を思い出します。
(2)どうして言われたくないのか、思いつくまま書き出してください。
論理的に文章にまとめる必要はありません。ランダムに思いつくまま、書き出してください。 ※10分間と時間を決めて取り組むのもOK。この時間、ひたすら理由を挙げてください。
(3)どうすれば、「頑張って」の言葉が気にならなくなるのか、その対策を考えてください。どのような方法でもOK、荒唐無稽なものでも構いません。そこに何かしらのヒントがあるからです。
(4)上記の(3)で挙げた対策の中で、 直ぐに取り組めるものは何ですか?取り組んでいる姿をイメージしてみましょう。 その結果、「頑張って」と言われたくない場面に変化はありましたか? プラスの変化が持てたのであればOKです。 その方法、実際に取り組んでみてください。

この《「がんばっている」と言われたくないゲーム》の目的は、「周りからあれこれ言われたくない」を、「何を言われても私は大丈夫」と切り替えるための練習です。実際に取り組んでみると、最初は過去に意識が向きます。自分が不愉快な思いをした過去に立ち返るからです。しかし、手順(2)と(3)では、「自分の今ここ」に集中ができます。まさに、マインドフルネス。親御さんも一緒に取り組んでみてください。

さいごに

「子どもたちに話すよりも、子どもたちと話すことが大切だ」冒頭で述べました。これは、児童心理学者ハイム・ギノットの言葉です。とかく大人は子どもに対して、「言って聞かせよう」としがちです。しかし、本当は「会話、それも十分に耳を傾ける会話」です。もちろん、皆さん意識なさっていることと思います。ただ、あと2点だけ意識してほしいことがあります。

まず、1点目。「あなたのために」という発言。これを使うことはありませんか?その発言は、
(1)親が真剣に子どもと向き合っての発言
(2)世間体を気にして、親が変な目で見られたくない発言
このどちらなのでしょう?もし、後者の場合、子どもは(この人は僕のことを見てはいない)と敏感に気づきます。これは避けたいですよね。

2点目です。気持ちを受け止めることが大事とお伝えしました。これは、私たち大人も同じです。親御さんも抱え込まず、信頼できる人に相談してください。話を聴いてもらうだけでも、随分とホッと安心できますから……。

(佐藤城人(さとう・しろと))