M&Aの売り手企業サイドとして頭を悩ますのが、どこの誰に手続きを依頼するかという問題。その道のプロはどのような考えを持っているのでしょうか。今回のメルマガ『『倒産危機は自力で乗り越えられる!』 by 吉田猫次郎』では、著者で事業再生コンサルタント、作家、CTP認定事業再生士の顔を持つ吉田猫次郎さんが、M&Aの成功例と失敗例をそれぞれ挙げ、その依頼先選びについてのアドバイスを記しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:メインバンクにM&Aを委ねるという選択肢

メインバンクにM&Aを委ねるという選択肢

今回は私にとって一銭のトクにもならないことを書きます。

昨今、中小企業のM&Aが盛んになってきていることは、皆様もご承知のことと思います。かくいう私も、事業再生や事業承継の相談を数多く受けている中で、その手段のひとつとしてM&Aをおすすめする場面が年々増えていますし、国のM&A支援機関にも登録しています。

M&A支援機関は現在、3,000社以上あります。業界大手、中小のM&A専門、コンサル、会計事務所、金融機関など、その系列はさまざまです。どこに依頼すべきか、悩ましいですね。

そんな中、対照的な事例を2つ目の当たりにする機会がありましたので、ここで取り上げたいと思います。

1.業界大手にM&Aを依頼して、不幸になったA社

この会社は年商8億円、当期純利益4,000万円ほどの規模ですが、DM営業でよく知られている大手M&A仲介会社に依頼して買い手を探し、結果、2億円ほどで売れました。

成約までに要した時間は5か月と、かなり短いほうでした。手数料は、あれこれ合わせて2,500万円ほどかかったそうです。社長は全株式を手放し、その対価として、手取り1億ウン千万円を手にし、さらには、売却後も取締役として仕事に関わらせてもらうことができました。

ここまでは良かった…。

しかし、本件では「買い手」のほうに問題がありました。通常、M&Aの実務では、売り手のことをじっくり調べるのは当然ですが、買い手の調査については、売り手ほどは入念ではありません。

また、大手のM&A仲介会社は手数料で稼ぐビジネスモデルですし、担当者も成約件数に応じて給料が大きく変わりますので、とかくスピード成約に向けて躍起になりがちだと思います。

その結果、買い手の企業体質に問題があるのを見過ごして、M&A後に不幸な結果をもたらしてしまうこともあるようで、実際、A社はM&A後にヒト・モノ・カネの全てにおいて、かなり苦労を強いられています。

にもかかわらず、M&A仲介会社はアフターサービス無しです。

2.メインバンクにM&Aを依頼したB社

この会社は年商4億円、当期純利益2,000万円ほどの規模ですが、地元の地方銀行にM&A部門があり、そこに買い手探しを依頼しました。結果、1.5億円で売れました。

成約までにかかった時間は2年と、結構長いほうでした。

手数料は1,000万円で、デューデリジェンス費用なども含まれていました。業界としては安いほうかもしれませんね。

買い手探しは、銀行の取引先および提携している銀行間のネットワークでのみ行われるので、大手M&A会社ほど手広くはありませんが、そのかわり、売り手・買い手双方の財務内容をどこよりも正確に把握できるので、その点は安心感がありました。

また、「銀行」ですので、いろいろな意味で信用できます。反社会的勢力は全力で排除してくれるし、いいかげんな会社を紹介したりもしません。M&A成立後も「銀行」として長いお付き合いが続きますから、実質的に良いアフターケアを受けることもできます。

そのようなわけで、B社は非常に満足な内容でM&Aを成立させることができました。

このように、M&A仲介会社はその系列等によって一長一短あります。

大雑把にいえば、大手は押しが強く、成約が早く、アフターケアが弱い傾向にあると思います。逆に銀行などは、押しが弱く、成約が遅いですが、信用を重んじ、慎重に相手探しをしてくれて、アフターケアも良好だと思います。

(メルマガ『『倒産危機は自力で乗り越えられる!』 by 吉田猫次郎』2024年5月20日号より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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