心をえぐるエピソードの数々

 大型連休も終わってしまい、五月病とまではいかなくとも、憂鬱な気分は誰しも抱えていることでしょう。そうしたときにオススメなのは、癒し系アニメです。それでも癒やされない場合は、「絵はかわいいのに暗い」「残酷な世界観が刺さる」と評判の、鬱な世界観にむしろ浸りきってしまうのもひとつの方法かもしれません。

●『宝石の国』

 人間のような姿をしている宝石たちは、月から襲来する「月人」と戦う日々を送っていました。月人は宝石たちを飾りにするため、空から来てさらっていきます。宝石たちのなかで最年少の「フォスフォフィライト(CV:黒沢ともよ/以下、フォス)」は、「硬度」が「三半」と特にもろい宝石です。

 戦闘に向かないフォスは、適した仕事もないのに口先だけはうまく、落ちこぼれ扱いされていました。宝石たちを束ねる「金剛先生(CV:中田譲治)」は、そのようなフォスに「博物誌編纂(はくぶつしへんさん)」の仕事を与えますが、フォスはその仕事すら嫌がります。

『宝石の国』は、講談社「アフタヌーン」で連載されていた同題マンガ(著:市川春子)を原作としたアニメです。登場人物の宝石たちは皆美しく、初見では鬱アニメに見えないかもしれません。しかし、主に月人との戦いで宝石たちは腕や足を割ってしまい、見た目が美しいからこそ、その残酷さが際立ちます。

 他の宝石同様、フォスも金剛先生のことが大好きです。先生の役に立ちたくて頑張るフォスですが、なかなか報われず、それどころか頻繁に体の一部を割ってしまいます。宝石であるため血は出ないものの、その残酷なほどのもろさは、見ていていたたまれなくなるほどです。

 月人も仏のような見た目ながら、さらった宝石を武器に加工したり、切り口が蓮根のように穴だらけだったりと、気持ち悪さが漂います。月人との戦いはいつ終わるのか、フォスが必要とされる日は来るのか……「鬱くしい」という感想がぴったりの作品です。

 なお、原作は2024年4月で完結しています。アニメの内容は、原作の5巻ほどまでとなっており、SNSでは「原作に比べたら癒やし系」「アニメは地獄の一歩手前」という意見も見られました。さらなる鬱展開を見たい方は、原作マンガもぜひご覧ください。

『宝石の国』は、「dアニメストア」「U-NEXT」「Amazon Prime Video」ほか配信サービスで見られます。

画像は『シゴフミ』DVD七通目<最終巻>(バンダイビジュアル) (C)湯澤友楼/バンダイビジュアル・ジェンコ

手塚治虫風のかわいらしい絵柄とは裏腹に世界観がハードなアニメも

●『シゴフミ』

 高校生の「町屋翔太(CV:代永翼)」は、東京都かもめ市の廃ビルで、こっそりロケットを作っています。そのような翔太を、別の高校に通う「綾瀬明日奈(CV:仙台エリ)」は、おしゃべりしながら見守っているのでした。

 ある日、明日奈の元に「明日奈の父親が遺体で見つかった」との連絡が入ります。翌日いつもの廃ビルに来た翔太は、不思議な格好の少女「フミカ(CV:植田佳奈)」と、しゃべる杖「カナカ(CV:松岡由貴)」に出会います。フミカは、死んだ明日奈の父親からの手紙「シゴフミ」を届けに来たのです。

『シゴフミ』は、死んだ人間から生きている人間にあてられた「死後文(シゴフミ)」を通し、さまざまな人間模様が描かれます。

「鬱版『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』」と呼ぶ人もいるほど、本作は暗めのエピソードが続く作品です。そして、シゴフミ配達人のフミカも特殊な事情を抱えており、「人間は壊れてる。自殺、近親相姦、親殺し。こんなにエラーの多い生き物は、人間だけ」とこぼすのでした。

 第1話は、翔太と明日奈のラブストーリーのように見えますが、衝撃の結末を迎えます。シリーズ構成は『機動戦士ガンダム 水星の魔女』『コードギアス 反逆のルルーシュ』を手掛けた大河内一楼さんです。なお、その衝撃的な内容からか、複数話で内容の修正や放送休止が行われています。

 監督は『機動戦艦ナデシコ』などを手掛けた佐藤竜雄さんで、本作のテーマを「人というのは山あり谷ありでも、とりあえず生きていかなきゃならない」と表現しています。非情な現実を淡々と描きつつ、「それでも生きていく」ということについて、考えさせられる作品です。

 『シゴフミ』は、「dアニメストア」「U-NEXT」「バンダイチャンネル」ほか配信サービスで見られます。

●『カイバ』

『カイバ Vol.1』DVD(バップ) (C)2008 湯浅政明・マッドハウス/カイバ製作委員会

 ある日、壊れた部屋の中で目覚めた少年「カイバ(CV:桑島法子)」は、記憶をなくしていました。胸には大きな穴が開いており、首から下げていたペンダントには、ある少女の写真が入っています。そしてその部屋に、カイバのことを知る「ポポ(CV:朴路美)」がやってきました。

 すると突然、カイバは何者かに襲われてしまいます。鳥に助けられたカイバは、再びポポに会い、この世界のことを知るのでした。この世界では、記憶のデータ化が行われ、新しい体への乗り換えが可能なのです。カイバは自分の体を売り、宇宙に逃げることにします。

『カイバ』は、『マインド・ゲーム』『DEVILMAN crybaby』で知られる湯浅政明監督の、オリジナルアニメです。手塚治虫風のかわいらしい絵柄とは裏腹に、チップにした人の記憶を改ざんしたり盗んだりと、かなりハードな世界観です。

 この世界では、体を好きなボディに乗り換えることはもちろん、嫌な記憶を消去し楽しい記憶だけをダウンロードできます。一見楽しそうですが、それができるのは富裕層だけで、実際は記憶をめぐる犯罪が横行しているディストピアなのです。

 カイバはそのような世界でさまざまな星をめぐりますが、そこで出会う人びとも記憶をいじられていたり、ボディが変わっていたりします。それでも「その人」は「その人」なのか、そしてカイバは何者なのか……高熱のときに見る悪い夢のような、やるせない鬱さのある作品です。

『カイバ』は、「dアニメストア」「U-NEXT」「Amazon Prime Video」ほか配信サービスで見られます。

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 美麗なイラストからは想像もつかないほど、鬱な展開が繰り広げられる3作品をご紹介しました。いずれも現時点で1期完結しているため、気になる作品があった方はぜひご視聴ください。なお、鬱がさらに加速する恐れもありますので、視聴の際はご注意を。

※朴路美さんの「路」は、「王編に路」が正しい表記