鱗滝さんの「鼻」が隊士たちを救った可能性

 TVアニメ『鬼滅の刃』柱稽古編が放送中で、毎週日曜日を楽しみにしている方も多いでしょう。原作マンガ通りなら、「柱稽古編」では鬼との戦闘シーンはないと思われていましたが、冒頭からアニメオリジナルのエピソードとして「風柱」の「不死川実弥」と「蛇柱」の「伊黒小芭内」の共闘が描かれるという特大のサプライズがありました。今後の展開が楽しみです。

※この記事では、まだアニメ化されていないシーンの記述があります。原作マンガを未読の方はご注意ください。

 さて、「柱稽古編」が始まったばかりで少々気が早いですが、「柱稽古編」のあとには、鬼殺隊と「鬼の始祖」である「鬼舞辻無惨」の最終決戦「無限城編」が待っています。柱はもちろん、柱稽古で力をつけた隊士たち、さらに「隠」の人たちも力を合わせて総力戦が展開されるわけです。

 総力戦なので、鬼殺隊の「元音柱」である「宇髄天元」、「元炎柱」の「煉獄槇寿郎」、「元水柱」の「鱗滝左近次」も登場して後方支援に当たりますが、これが少々もったいない気がしないでもありません。まだまだ元気な彼らがもし戦いに参加していたら、どんなシーンで活躍したかを考えてみます。

 元水柱の鱗滝は、「育手」として鬼殺隊の隊員の育成を担っており、「水柱」の「冨岡義勇」と「竈門炭治郎」の師でもあります。天狗の面を付けていますが、隙間から見える頬や手には深いしわが刻まれているのが分かります。炭治郎が鬼殺隊の最終選抜で戦った「手鬼」によると、「47年前」の「江戸時代の慶応の頃(1865年5月1日から1868年10月23日)」には、柱として活躍しており、60歳以上であることは確かです。最前線で鬼と戦う柱の任を五体満足のまま引退できたことから、優れた剣士であったと思われます。

 鱗滝さんは怖い天狗の面をかぶってはいますが、かつての教え子の「錆兎」や「真菰」から慕われていたことや最終選抜から無事に帰ってきた炭治郎を抱きかかえて涙を流したことから、実際には人情味あふれる優しい人だったのでしょう。また、最終選抜に向かう弟子たちのために一つひとつ厄除の面を彫っていたことや、修業を終えた炭治郎にたくさんの焼き魚と鍋を用意してくれたこと、禰豆子を入れて背負う箱を作り直してくれたことから、面倒見の良い人であることも分かります。

 炭治郎が鱗滝さんのもとで修行していた際には、眠り続ける禰豆子に「人間は皆、おまえの家族だ」、「人間を守れ。鬼は敵だ」、「人を傷つける鬼は許すな」と暗示をかけた鱗滝さんは、禰豆子が「人のために戦う鬼」になる一端を担う人物です。

「無限城編」においては、「珠世」が作った「鬼を人間に戻す薬」を飲んで眠る「禰豆子」を見守ることが鱗滝さんの任務でした。もし、禰豆子の見守りをしのぶの蝶屋敷で働いていた「神崎アオイ」と「きよ、すみ、なほ」の3人に任せ、彼が無限城での戦いの現場に出ていたら、その的確な判断力と「鼻が利く」という特技を活かして活躍できたかもしれません。

 たとえば、父である「産屋敷耀哉」の跡を継いで「お館様」となった「産屋敷輝利哉」の意図を汲みながら、現場で一般隊士たちをまとめる指揮官になってもらうのはどうでしょう? 鱗滝さんは、炭治郎の修行のために日々、空気の薄い高い山に登ってワナを仕掛けて回る体力もあったことですし、鼻を活かして、いち早く無惨を発見できたと思われます。そして、はやる隊士たちを制して、「わざわざ食糧を運んで」無惨の回復を早めるのは回避できたかもしれません。

 続いて、元音柱の宇髄天元と元炎柱の煉獄槇寿郎は無惨との戦いにおいて、どのような形で戦力になり得たかを考えてみます。

「遊郭編」で派手派手な戦いを繰り広げた「宇髄天元」は片目と片腕を失くして引退した (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

柱として、父親としての自分を取り戻し「決戦の場」へ

 元炎柱の煉獄槇寿郎は、「無限列車編」で「上弦の参」の「猗窩座」と戦って命を落とした「杏寿郎」の父親で、彼の先代の炎柱です。かつては、精力的に鬼狩りの仕事に励む「良き柱」であり、愛妻家の「良き夫」、息子たちを熱心に指導する「良き父」でもありました。しかし、日の呼吸や耳飾りの剣士のことを知った槇寿郎は、己の限界と無力さを思い知って打ちのめされ、さらに同じ時期に最愛の妻を亡くしたことが重なって自暴自棄になり、酒浸りの生活を送るようになったのです。

 以降の槇寿郎は仕事への情熱も失ってしまい、努力して炎柱になった杏寿郎を罵倒したり、次男の千寿郎に対しても冷たい仕打ちをしたりなど、柱としても父親としてもすっかり落ちぶれてしまいます。炭治郎が杏寿郎の遺言を伝えるために煉獄家を訪ねた際も、亡くなった杏寿郎をおとしめ、千寿郎を殴りつけるなどのひどい仕打ちで炭治郎を激怒させました。

 そんな槇寿郎を改心させたのは、杏寿郎からの「体を大切にして欲しい」という遺言でした。父の産屋敷耀哉亡き後、新たに「お館様」となった輝利哉の護衛に当たった際には、以前の志を取り戻し、「杏寿郎同様、煉獄家の名に恥じぬよう、命を賭して(輝利哉様を)お守りする」と、天元に決意を語っています。

 しかし、槇寿郎は柱の地位を退いて2〜3年が経ち、その間は酒浸りだったのでしょう。そうなると、上弦の鬼と戦うのは厳しそうです。もちろん、「下弦程度の力を持たされている」雑魚鬼たちを蹴散らす力は、槇寿郎にもまだありそうですが、彼にしかできないのが産屋敷家の遺児たちのサポートだと思います。無限城の戦いに参加した柱と元柱のなかでは、唯一、親となった経験があり、かつては杏寿郎と千寿郎にとっても「良き父」だった槇寿郎です。当時の自分を取り戻しているなら、父を亡くしたばかりの幼い輝利哉たちに寄り添い、彼らを精神的にも支える護衛の役が適任かもしれません。

 最後に、元音柱の宇髄天元について、無限城編での戦力になりえるかどうかを考えてみます。「遊郭編」において上弦の陸との戦いで左目と左腕を失って柱を引退した天元ですが、「柱稽古編」でも「基礎体力の向上」の修行を受け持ち、張り切って隊士たちをしごいています。引退したとはいえ、一般隊士たちよりも動きも早いですし、スタミナも持ち合わせているのは明らかです。

 結論からいうと、天元は無惨との戦いの場で活躍できたでしょう。

 その理由としては、彼が「毒に対する耐性があること」が挙げられます。この耐性のおかげで無惨の「細胞破壊の毒」にほかの柱たちよりも長く耐えられそうです。次に、彼の「火薬を使う技」による広範囲の攻撃は、長い触手を使う無惨の攻撃にも有効と思われます。

 また、無惨との「戦闘時間の長さ」も、天元にとってはデメリットではありません。彼独自の「譜面」を使う攻撃は、相手の動きを把握して攻防の両面を底上げできる、とても優れたものですが、完成に時間がかかることが難点でした。しかし、無惨との戦いは夜明けまでの長時間に及び、ほかの柱たちとも共闘していたため譜面を完成させるための時間も取れたはずです。

「上弦の陸」である「妓夫太郎」を追い詰めたド派手な技を、もう一度見たかったと思う人は多いのではないでしょうか? そして最後に、ラスボスとの戦いという「最高に派手」な場ほど、ファンの間で「派手柱」と呼ばれる天元にピッタリの舞台はないと思われます。きっとモチベーション最高な状態で戦いきったはずです。

 連載終了から4年経ってなお、このような「タラレバ」を含め、さまざまなことを考えさせてくれる『鬼滅の刃』の懐の深さこそ、ファンの心をとらえて離さないもののひとつなのでしょう。

※煉獄の「煉」は「火+東」が正しい表記
※禰豆子の「禰」は「ネ」+「爾」が正しい表記