日本において年間38万人以上ががんで亡くなる中、大腸がんが女性のがん死因第1位となっています。特に50歳を過ぎると罹患率が高まりますが、早期発見することで内視鏡的治療による完治が期待できます。今回は国立がん研究センターの斎藤豊先生にお話を聞きました。
この記事は月刊誌『毎日が発見』2024年4月号に掲載の情報です。
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罹患数は50歳頃から増え、高齢になるほど多くなる
2404_P070-073_03.jpg2404_P070-073_02.jpg出典:国立研究開発法人国立がん研究センター がん情報サービス

女性は低い検診受診率 早期発見が何より大事
日本では年間38万人以上が「がん」で亡くなり、女性のがん死因第1位は大腸がんです。
罹患数も多く、女性は第2位です。
50歳頃から増加が見られ、年齢が進むにつれてその数は増えていきますが、大腸がんは決して治療が困難な病気ではありません。
「大腸がんが腸内の粘膜の表面に留まるステージ0(ステージ1よりも早期段階)であれば、ほとんど内視鏡的治療で完治できます。早期段階で大腸がんを見つけられれば、肉体的にも経済的にも負担は少なくなります」と、斎藤豊先生は説明します。
大腸がんは早期の発見・治療で治る可能性が高いですが、発見が遅れると、がんは腸内の粘膜の下まで広がって進行がんになります。
大腸がんの5年生存率は、早期段階のステージ1では92.3%、肝臓や肺など大腸以外の臓器に転移した進行がんのステージ4では18.3%にまで低下します。
「大腸がんは、残念ながら進行がんで見つかるケースが依然として多いがんです。その原因の一つが、検診の受診率の低さにあります。女性は男性よりも大腸がん検診の受診率が低く、約4割に留まっています」と、斎藤先生。
大腸がん検診の受診率が低い理由について調べた研究では、「症状がないから受けない」と回答した人が多かったそうです。
風邪をひけば、発熱し、せきや鼻水といった症状が出ます。
でも、大腸がんは腸内に発症しても、早期段階では熱も出なければ、痛みも感じません。
無症状で体調も悪くないのに、体内でがんが進行しているとは思わないでしょう。
「多くのがんは早期段階では自覚症状に乏しいですが、大腸がんの場合、血便や痛みなどの症状が出たときには進行していることがほとんどです。だからこそ、定期的に大腸がん検診を受診して早期発見・早期治療につなげていただきたいと思います」と、斎藤先生は話します。


主な発生部位と症状
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※浸潤(しんじゅん) がんが周囲に染み出るように広がっていくこと。
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検診で「陽性」と出たら内視鏡検査を必ず受ける
現在、国が推奨している大腸がん検診は、40歳以上が対象で1年に1回。
検査項目は、問診と、便の中に血液が混じっているかどうかを調べる便潜血検査です。
便潜血検査で「陽性」の結果が出たときには、大腸内視鏡検査などの精密検査を受けることが重要。
大腸内視鏡検査は、肛門から挿入した内視鏡で大腸がんの有無を詳しく調べる検査です。
「便潜血検査で『陽性』と結果が出た後、大腸内視鏡検査を受けている人は約6割しかいません」と、斎藤先生。
「約4割の人は陽性の結果を放置し、精密検査を受けていないのです。その結果、進行がんへ移行したケースは珍しくありません」
便潜血検査の「陽性」は、大腸で出血している可能性があることを示します。
がんか、もしくは他の理由か、大腸内視鏡検査で調べなければ分かりません。
仮に大腸がんであっても、早期段階で発見できれば、手術をすることなく内視鏡的治療で完治が期待できます。
内視鏡による治療は、がんが粘膜の表面に留まるステージ0や、がんが粘膜下層表層に留まるステージ1といった早期がんが対象です。
「日本は、大腸内視鏡検査も、内視鏡的治療も、世界に誇る技術力があります。安心して大腸内視鏡の検査や治療を受けていただきたいです」と、話す斎藤先生の元には、その技術や治療方法を学ぼうと、海外から年間100人近い医師が見学に来るほど。
それだけ日本のレベルは高いのです。
構成/岡田知子(BLOOM) 取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史



国立がん研究センター 中央病院  内視鏡センター長・ 内視鏡科長
斎藤 豊(さいとう・ゆたか)先生

1992年、群馬大学医学部卒。三井記念病院消化器内科医員/医長、国立がんセンター中央病院内視鏡部医長などを経て、2012年より現職。大腸がん内視鏡手術の名医として、日本消化器内視鏡学会などの指導医も務める。