スピードと燃費の関係

 一般に、内燃機関のクルマを走行させる上で、燃費を向上させるために必要な要素。見方を変えれば、燃費を悪化させる要因には次のようなものがある。

●スピード
 速く走るためには、エンジン回転数を高く保つ必要があるが、これは燃費を悪化させる。

●加減速
 加速と減速を繰り返すと、エンジンの吸排気の大きな変化にともなうポンピングロスが発生する。これが燃費を悪化させる要因となる。

●車両重量
 車両重量が重いクルマ。乗車人数が多いクルマ。荷物が多いクルマ。これらのクルマは、加速後のスピードを維持するために、相応のエンジン回転数を維持する必要がある。したがって、その分だけ燃費が悪化する。

●タイヤの転がり抵抗
 転がり抵抗とは、タイヤが路面と接触する際の摩擦抵抗起因し、燃費に大きく影響する。

●空気抵抗
 タイヤの摩擦抵抗と同様に、クルマのボディと周囲の空気との間に摩擦抵抗が発生する。そのため、ボディと接する空気の流れをできるだけスムーズにする空力性能が重要となる。

 本稿ではこれらを踏まえて、電気自動車(EV)の電費を改善するために重要な条件を考えていく。

EVのイメージ(画像:写真AC)

EVの加減速とエネルギーロス

「スピード」については、内燃機関と同様、EVでも低速が有利であることは理解できる。

「スピードアップ = 消費電力の増加 = 電費の悪化」

するという図式だ。

 一方、「加減速」に関しては少し事情が異なる。内燃機関の減速とは、蓄えた運動エネルギーをブレーキによって熱エネルギーに変換して捨てることである。ならば、エンジンブレーキはどうだろう。これはエンジン自体の回転抵抗と前述のポンピングロスに由来するという意味では同じことである。

 対して、EVではスロットルを離すと、内燃機関にはない「回生ブレーキ」と呼ばれるメカニズムが働く。加速時や巡航時に駆動力を発生する駆動モーターを、減速時には発電機として利用する仕組みだ。

 発電した電力はバッテリーに戻される(回生させる)。つまり、EVの加減速は、状況によっては大きなロスが発生しないのだ。

EVのイメージ(画像:写真AC)

空気抵抗の影響とEVの利点

「車両重量」について、EVは基本的に内燃機関モデルよりも重く、デメリットになることが多い。「タイヤの転がり抵抗」については、加減速時のトルクが大きいEVはタイヤへの負担が大きく、専用設計のタイヤが必要になるケースが多い。つまり、走行抵抗の少ない省エネタイヤへの交換は基本的に勧められない。

 最後に「空気抵抗」との関係である。クルマの形をしている限り、EVも内燃機関モデルも大差はない。空気抵抗が少ないほうが、電費の面では効果的である。しかし、クルマそのものの細部に目を向けると、内燃機関モデルとEVの違いが垣間見える。

 具体的には、内燃機関モデルはエンジンを冷却するためのラジエーター、冷却風を導くためのインテーク、そしてそれを排出するためのアウトレットが必要となる。

 EVも駆動モーターやバッテリーを冷却する必要があるが、内燃機関に比べればはるかにコンパクトでシンプルなシステムで完結できる。そのため、ほとんどのEVには内燃機関モデルのような大きなラジエーターグリルがない。

 実際、クルマの空力性能で最も重要なのは、ボディの開口部をできるだけ小さくすること、できればなくすことだ。同様に、ボディパーツの取り付け部の隙間や段差も、空力的にはマイナス要因だ。最高速度に挑戦する、いわゆるレコードブレーカーの表面が滑らかで、段差がほとんどないのはこのためだ。

 電費の改善に直結する諸条件を詳しく見ていくと、現在のEVのデザインが理解できる。ボディのシルエットに凹凸が少ない。フロント部分の開口部が極端に小さい。これらは単なるデザイン上の問題ではなく、性能を確保するために導入されたものだったということである。

EVのイメージ(画像:写真AC)

タイヤ周辺の空力改善技術

 EVにはもうひとつ、空力性能上のメリットがある。それは、駆動装置がシンプルなため、ボディ下面をフラットに設計しやすいことだ。

 一般的に、走行中に発生するボディ下面の空気の流れを整えることは、ボディ上面と同じくらい重要である。レーシングカーのような内燃機関モデルでは当たり前のように行われているが、量産モデルではメンテナンスやコストの問題から難しい。

 これに対し、最新のEVプラットホームでは、薄型バッテリーをフロアに並べて収納することで、内外フラットな床を実現している。これは空力性能の観点からも非常に有利である。

 最後に、最新のEV関連の空力設計に取り入れられ始めている新技術について触れておきたい。タイヤとその周辺の空気の流れを調整する方法である。

 ボディとは異なり、タイヤ周辺はホイールアーチを覆うスカートで空力処理されているにすぎないのが現状だ。しかし、走行中のタイヤの動的シミュレーションによってタイヤ自体の空力性能を高めることができれば、前述の回転にともなう摩擦抵抗の低減と合わせて、空力特性の大幅な向上が期待できる新技術である。

 住友ゴム工業は2024年2月7日、タイヤ自体の空力シミュレーション解析技術の開発に成功したと発表した。この技術は近い将来、他社にも広がっていくだろう。空力性能に優れたEVタイヤが市販される日もそう遠くはない。