今、住宅系のYouTube界隈を騒がせている男がいる。動画チャンネル『ジュータクギャング』の押村知也だ。設計から建築、インテリアコーディネイトに至るまで住宅に関するすべてをこなす住宅のスペシャリスト「住空間クリエイター」である。歯に衣着せぬ彼の発言は、わかりやすくて痛快。『ジュータクギャング』は、更新のたびに視聴者の心をつかみまくっている。 そんな押村は5月2日、自身の考えや思いを綴った初の書籍『美しい家のつくりかた』を発売した。
押村は、新築を建てる際に絶対にケチってはいけない建材として屋根を挙げている。とくに下葺き材ともいわれる「ルーフィング」は必ず確認すべきだ。見えない箇所だけに、いつの間にか安価な素材が使われ、雨漏りの原因になることもあるという。

◆「片流れ」や、平らな「陸屋根」がダメな理由

yane002家の屋根について、押村による結論を1行目に書いてしまうなら、「先人の知恵はやはり偉大である」ということに尽きる。屋根には大きく2つの要素がある。形状と素材だ。

「屋根の大きな役割は、風雨や太陽光などから家を守ること。日本に古くからある『寄棟』と『切妻』は、この点において優れています。寄棟とは、三角形の部材を四方向から集めたような形の屋根のこと。棟を中央に寄せていることから名付けられました。切妻はいわゆる三角屋根。子どもの絵によく登場する、2枚の大きな板を斜めにつなげたような屋根のことです。妻とは端の意味。屋根の端が切り落とされたような形なので切妻です」

両者は具体的にどこが優れているのか。

「降ってきた雨を分散させる能力です。どちらも、水滴を下に流しやすい形状になっています。太陽光を防ぐ力に関しては、寄棟にやや軍配が上がります。四方向に屋根があるため、太陽のある位置にかかわらず、太陽光から家を守ります。一方、切妻は屋根が三角に見える方向からの太陽光に少し弱い。壁が剥き出しの形になってしまうからです」

したがって、押村がつくる家は寄棟が基本となるという。だが最近、巷では一面だけ傾斜した「片流れ」や、屋上が使える平らな屋根の家もよく見かけるようになった。それらの評価はどうなのか。

「最近はやっている片方へ大きく傾斜している屋根のことを『片流れ』といいます。この片流れは、屋根の傾斜が一方向のため、排水処理が追いつかなくなる可能性があります。また、頂上付近に降った雨が外壁を伝わりやすくなるので、雨漏りしやすかったり、太陽光が当たる面が多いので小屋裏が熱くなる懸念があります。見た目がおしゃれで安価ということで採用される方も多いのですが、デメリットをきちんと把握しておきましょう。『陸屋根』と呼ばれる平らな屋根は、傾斜がないので、雨水が下へ流れていきにくく雨仕舞がいちばん悪い。これはやめておいたほうがいいでしょう」

◆下葺き材=ルーフィングの素材は、必ず確認すべし

屋根の素材は瓦、スレート、ガルバリウム鋼板などが代表的。押村が使うのは、セメントに樹脂などを混ぜた「ハイブリッド瓦」だ。

yane001「従来の粘土を用いた瓦は、重いため耐震性に難ありということで廃れてきました。その点、ハイブリッド瓦は軽量なので、粘土瓦の半分程度の重量しかありません。寿命も50年、長いと100年保つと言われています。また、瓦のウェーブした形は非常によく考えられたもので、そこに空気を通すことで自然と断熱ができるつくりになっています。積み重ねた歴史というのは、本当にすごいものです」

夏場に屋根裏の室内温度を計測すると、およそ5〜10度ほど低いのだとか。

「現在、屋根に多く使われているスレートやアスファルトシングルといった素材は、安価で軽量ですが、劣化が早いので、10年に1度ぐらいのペースで、メンテナンスが必要です。また最近はやりのガルバリウム鋼板は、屋根が熱せられると、屋根裏の温度が上がりやすくなります。また鉄板なので雨音が響きやすい。気にならないという人も多いのですが、気になるという人もいるので、よく考えましょう」

屋根を選ぶうえで、もっとも大事なことは、その下葺き材にあるという。

yane003「下葺き材とは、下地材と屋根の間に挟む防水シートのこと。ルーフィングと呼びますが、この下葺き材の素材を必ず確認してください。もっとも普及しているものにアスファルトを主成分としたアスファルトルーフィングと呼ばれるものがありますが、これは絶対にやめましょう。ペラペラの紙のような素材で、手で引きちぎることができます。商品の寿命は約10年と短い。わざわざハイブリッド瓦を使っても、ルーフィングが低品質であれば、台無しです。見えない箇所なので、住宅会社も、わざわざ施主に確認したりしないので、不織布タイプのルーフィングに変更したいと言ってください。屋根の寿命に直結します」

押村曰く、「平米計算で100円でも200円でも上げるだけで品質が上がる」とのこと。ちなみに太陽光発電については、故障して撤去する費用やメンテナンスを考えるとエコだとは到底思えないので、採用しないそう。次世代のソーラーパネルに期待しているとか。

〈取材・文/ツクイヨシヒサ〉



【押村知也】
(おしむらともや)スタイラス所属。20代で建築、都市計画、インテリア、暮らしについてカナダ、アメリカで学び、輸入住宅などを手掛けるも挫折、住宅とは何かを見失う。大手ハウスメーカーや大手デベロッパーにコンサルティングして感じた「業界の嘘」と「都合の良い慣習」に納得できず、悪しき慣習にまみれた日本の住宅づくりからの逸脱が始まり、住宅業界の異端児となり、1000棟以上の建築設計を手掛ける。2022年7月にYoutubeチャンネル『ジュータクギャング』を開設。近著『美しい家のつくりかた』