<中日0−1阪神>◇15日◇バンテリンドーム

背番号5が決めた。0−0で進んだ延長11回、阪神近本光司外野手(29)が均衡を破る決勝タイムリー。前日敗戦につながる痛恨失策を犯した佐藤輝明内野手(25)が2軍落ちし、無得点が続いた重苦しい展開を一振りで切り裂いた。近本は打率、打点、本塁打、勝利打点、安打数、盗塁数でチームトップの6冠に浮上。チームは今季延長戦で8戦1敗の粘り強さを発揮し、首位巨人を追う0・5差は変わらず食らいついた。

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右手でベンチへ合図し、軽く息を吐いた。一塁ベース上で近本は、少しだけ緊張から解き放たれた。先頭の森下が二塁打。2番中野が二ゴロでつないだ好機をものにし、虎の子の1点をつかんだ。

「森下が打ってくれたので、絶対にチャンスで回ってくると思っていた。『あっ、これ絶対打たなあかんな』と思いながら、初球にすごい空振りしました」

仲間の懸命なつなぎを感じるからこそ力んだ。0−0の11回1死三塁。変則左腕斎藤の初球、外角ボール球のスライダーにバットが空を切った。これで「空振りするのはスライダーだけ。それをケアしながら」と冷静になれた。カウント2−2になると開き直った。

「自分のスイングをしてミスショットするより、追い込まれてしっかり対応した方がいいなと、追い込まれてから思いました」

制限がかかり、それをプラスに変えた。最後は低めボール気味のシュートに食らいつき、決勝の右前適時打。「楽しく打席には入ってました」と笑ってみせた。2試合連続マルチ安打。3試合連続で3番に座り、同打順では今季初打点だ。チームでも3番が打点を挙げるのは5月5日の佐藤輝以来。主軸が打てば勝つ。

2月の沖縄キャンプ。そこは近本にとって研究発表の場でもある。「自主トレで何をしたか、みんな披露する機会だから」。ただ、今年は違った。自らの打撃に没頭していた。「自分のことで精いっぱいやったな、今年は」。個別練習では打撃フォームを撮影。修正の毎日だった。しっかり土台をつくったからこそ今がある。打率、本塁打、打点、安打、盗塁、そしてこの日マークした勝利打点5を含め、“チームの打撃6冠”にも浮上し、打線をけん引している。

新打線で勝ちを拾い、岡田監督は「こういうゲーム展開は、(ミスなく)ちゃんとした方が点入るよ」とたたえた。佐藤輝が出場選手登録を抹消された日に、その“ショック”を振り払うような1−0勝利。この日も勝った首位巨人を0・5差でピタリ追う。「自分のやることは1番であろうが3番であろうが変わらない。チャンスで回ってきたらかえすということだけは、何番であっても変わらない」。そう言える近本が、どんな時も虎打線の核だ。【中野椋】