5月12日、新世代津軽三味線の第一人者、上妻宏光さんがCBCラジオ『小堀勝啓の新栄トークジャンボリー』に出演しました。 4月10日リリースのアルバム『和響〜Encuentro〜』では、その録音も緊張感いっぱいだったと振り返る上妻さんに、小堀勝啓が尋ねます。

     

新しい挑戦

小堀「毎回いろんな物に挑戦するなと思っていたら、今度はチェロの宮田大さんと上妻さんのデュオでびっくりしました」

4月10日にリリースされたアルバム『和響〜Encuentro〜』は、短音楽器である三味線とチェロのコラボレーションと言える作品です。

上妻「これを僕がやりたいと思ったのは、弦楽器でかつハーモニーがない状態の楽器同士のぶつかり合いをやりたかったからです」

これまでピアノやギターなど和音がある楽器との共演では、音の広がりがある中で安心感があったそうです。

上妻「それを敢えて排除して違う扉を開きたい、今まで自分になかった三味線の表現を開発していきたいという思いもあったんです」

宮田大を選んだわけ

津軽三味線は即興演奏ですが、スコアで演奏する形態も作りたかったそうです。そこでクラシックが土台の人とのデュオ。

三味線は中音から高音を使う楽器なので、相手は低音でかつメロディーも奏でることができるチェロ。

2022年に開催したマイクを通さないコンサート『生一丁!』で、ゲスト参加したのが宮田さんでした。
ツアー終了後、「緊張の中での演奏が楽しめた」と感じた上妻さんがオファーしてアルバム制作が決まったとか。

上妻「これ、もうちょっとガッチリやろうよって話を持ち掛けたら、宮田君の方も喜んで、絶対やりましょうっていう話になったので、このアルバムは期待していただいていいかなと思います」

削ぎ落とす音作り

小堀「そのすごいコラボ、果し合いじゃないですけど、一刀流の戦いみたいに感じます。緊張しますか?」

上妻「空間を音で埋めるんじゃなくて、敢えて削ぎ落とした状態。『お前は何ができるんだ?』ということを自分自身に突きつけたいなと思いました。宮田君も良い緊張感があったと思います」

例えばハーモニーを奏でるピアノとやる時は、三味線を弾かなくても和音、ハーモニーが鳴っています。チェロも継続して弓を弾いていれば音は出ていますが、それを失くした瞬間に無音の空間になります。

チェロと三味線には確実に無音になる時があり、音がないからと焦って弾いてしまってはチェロと三味線のデュオは成立しないそうです。

こだわりの一発録り

上妻「プロのミュージシャンは一斉にドンと出した瞬間に、そこで間違えようが上手くいこうが、それが自分の実力だと思っているんです。だから一発で録ることに命を懸けてるんですよ」

上妻さんは、10年ほど前からアルバム制作は、なるべくダビングなしの一発録りにこだわっているそうです。今回のアルバムももちろんそう。

上妻「ライブでやる時も、どんどんお互いの間合いというものを汲み取っていくので、コンサートをやる度に熟成されていくんだろうなと思ってます」

意外な見どころ

5月24日から始まるコンサートツアーが『上妻宏光 宮田大 Duo Concert Tour -月食-』。
演奏される曲はドビュッシーの「月の光」や、映画音楽『タイタニック』で流れたダンサブルなアイリッシュ民謡など。

三味線とチェロ用に上妻さんのオリジナル曲をアレンジしたり、三味線とチェロ用に新たに作曲家に依頼した曲も演奏するそうです。

もうひとつの見どころは、クラシックの演奏ではあまり喋らない宮田さんが、このコンサートツアーでは喋ること。
上妻さんと宮田さんのトークを交えながら進行していくそうです。

タイトルに込めた思い

アルバム収録曲「La Noche de Segovia〜セゴビアの夜」を聴いた感想を語る小堀。

小堀「まるで世界旅行ですね」

上妻「僕も三味線を通じて世界旅行しているといっつも思うんですよ」

ボサノバの小野リサさん、ロックのMIYAVIさん、和太鼓の林英哲さんなど、様々な背景を持つ音楽と共演している上妻さん。

「セゴビアの夜」では中世の街並みがあるスペインのセゴビアという街を感じられる曲に仕上がったと言います。

小堀「飛行機ではなく、シルクロードをずっと行きながらスペインにたどり着いたなという和とアジアの匂いがする仕上がりだと思います」

上妻「西洋的でもあるんだけども、三味線とチェロの息遣い、間を皆さんにも感じてもらえたらなと、アルバムに『和響』というタイトルをつけさせてもらいました」

小堀曰く「上妻宏光さんは三味線を武器にした侍」。
コンサートツアーが始まります。せひ生で三味線とチェロの生み出す「間」を感じてみましょう。 
(尾関)