芸歴25年目のピン芸人・中山功太は、2024年はネタを磨く1年にすると宣言し、3月から毎月1回単独ライブを開催している。R-1グランプリや歌ネタ王決定戦で優勝した実力者である中山が、40代半ばに差しかかった現在、改めて真剣にネタと向き合うと決めたその想いを聞く。
 

月1回の単独ライブでネタを鍛える

――優勝した2009年以降もR-1に出場されていたそうですが、チャンピオンになった後に出場するのはどんな感覚ですか?

中山(以下、同) 2009年まではR-1優勝を目標にしていたので、その後は同じような熱量ではできなかったですね。でも、「出場しないんですか?」とマネージャーに聞かれたら「じゃあ出ます」と言ってしまって。よくなかったですね、惰性やから。年によっては3回戦とかで普通に落ちてました。賞レースって「これがウケる」と思うネタでズバっといくか、自分がやりたいお笑いをやるか、そのどっちかやと思うんです。

僕の場合、優勝した年はウケるネタに絞ったんですけど、それ以降はそのどっちでもなかった時期で。それでも、出場しないという選択にどうしてもいけなかったので、苦しかったです。ちなみに、今年は2回戦で落ちました。

――中山さんが2回戦で敗退ですか。

前日にネタの準備をしてて、いろいろと駆けずり回った結果、誰も読めないような文字を書いたフリップでネタをやってしまったんです。やる前から落ちると思っていました。それで当日、予選が始まる前にマネージャーに「毎月1回ネタの単独ライブをやりたいです。今から場所を押さえてください」とお願いしました。
本気で上を目指しているほかの出場者と意気込みが違いましたし、同じくらいの意気込みになっていない自分に腹が立ったので、1年くらい毎月単独ライブをやってネタを叩こうと。
 

――これまで3月、4月とライブをされてきて、ネタに対する意識は変わりましたか?
今はもうぬるい気持ちはないです。最近は吉本の沼津の劇場で昼寄席に出させてもらっていますが、ハイレベルな漫才師の方が出る中で僕に興味がないお客さんにも喜んでもらわないといけません。そんな状況でゴリゴリのコントをやっています。

僕の経験則では「対義語」というフリップのネタが一番ウケるんですけど、そればっかりではダメなので。この前も出番を3ステージいただきましたが、3ステージあったら全部ネタを変えたい気持ちはありますね。僅かですが、わざわざ僕を観に来てくれる方がいるので。10分出番があったら5分の部分は変えてます。
 

――今年の1月にも東京と大阪で単独ライブをされていましたが、それぞれ違う10本の新ネタを計20本披露されていて驚きました。

東京と大阪どちらの公演もライブ配信があるので、東京のライブを配信で観た人が大阪の会場に来ると、同じネタを何本も観ることになってしまうんです。それを0にしようと思ったら、ネタをすべて変えるしかなくて。
 

――そこまでする芸人さんって珍しいんじゃないですか?

あんまりいないかもですね。そもそもピン芸人がネタ10本やるライブって、僕が勝手に始めたらしくて。本来なら単独ライブでやるネタは3本くらいが相場なんです。でも僕のせいで、ネタ3本だけだと手を抜いてる雰囲気になるらしく。後輩のピン芸人に「あんたがムチャクチャにしたんです」と言われたこともあります。でも新ネタはやっぱり楽しいですね。反応もわからないし、すべてが勉強になるので。

2年間毎日20時間、8000個のネタ作り

――2008年、2009年はR-1優勝に向けたネタ作りにものすごく努力したと聞きます。

2008年と2009年は毎日20時間ネタ作りしてました。その2年にやったネタは1個1個のネタが分離されていて、内容をいくらでも変えられたので、7000個か8000個ぐらい作りました。

――すごい数ですね。

そのころ、僕はネタ作りのために勝手に吉本の本社に住んでいました。会議室の机とかで寝起きして。当時は付き合っていた彼女と同棲していたんですけど、やっぱり家だと気が散ってネタ作りができなかったので。だから、会議室で寝て、そのままテレビ局へ行ってシャワーだけ借りる生活を毎日繰り返していました。

「会議室使うから出ろ」ってなった時は廊下とか、屋外で寝たこともありました。そんな生活をしていたら頚椎症になってしまい、僕、首の上から4つ目の骨がないんですよ。コンビだったら相方が止めてくれますけど、ピン芸人は止めてくれる人がいないので果てがないです。


――優勝した時は「これで売れる!」って思いましたか?

R-1優勝自体が目標だったので、その後のことを考えてなかったですね。「R-1には夢がない」って言われてますが、M -1にしてもR-1にしても「優勝したらテレビに出て、お笑いタレントとして成功できる」というのは考えが甘過ぎると思います。名前出さないですけど、優勝しても平場弱いからあんまりテレビに出ていない人いるじゃないですか。僕にしても、優勝したのに売れていないのは実力不足なので、仕事がないのは自分が悪いと思っています。
 

――ときどき「自分のせいでR-1に夢がなくなった」と発言されています。冗談めかしているとは思いますが、あの発言の真意ってどうなんですか?

冗談ではありますけど、リアルに言うと、僕と三浦マイルドのせいだと思ってます。同じチャンピオンのあべこうじさんとか、佐久間一行さんとかは、ちゃんとお客さんも入るし仕事もあるんですよ。R-1優勝して食えていないのって僕と三浦マイルドだけなんです。
 

――ご時勢もありますが、中山さんやマイルドさんの「毒」が強いお笑いが評価されないのは寂しいです。

あべさんや佐久間さんって、毒っ気が少なく感じるかもしれないですけど、ちゃんと批評性があるんですよ。ネタに批評性がない人って絶対ダメですけど、佐久間さんのネタはポップに見えて「ここがどう考えてもおかしい」とか「これは実はダサい」みたいな批評がしっかりある。僕とマイルドは批評し過ぎなんです。そんなん誰も求めてないんですよ。

60歳になっても舞台に立つためにネタを磨く

――ネタを磨くために毎月単独ライブを敢行する一方で、R-1への出場は来年で最後にすると表明されました。

もう最後ですね。でも、3月、4月とライブをやって思ったのが、来年のR-1出ないかもわからないです。ライブの出来が悪かったんじゃなくて、自分の中での手応えはありました。ただ、どんどんネタがシンプルになっているので。昔は、わかりやすさより自分の好きなことを優先していて、ほぼ全部の単独ライブでスベってました。

でも今は、いいバランスでやれていると思います。ただ、そのバランスでは、今年の決勝のルシファーさんとか吉住さんみたいな、あそこまで飛び抜けたコントを自分はまだ作れていないので。2回戦で落ちた時は「来年のR-1のために」と思いましたけど、今は50歳とか60歳になったときに舞台でやれるネタを磨くほうの気持ちが大きいですね。

――芸人にとってネタはどの程度重要だと考えていますか?

僕は100%かなと思います。名刺代わりでもあるし、ネタをまったくせずに売れた人ってなかなかいないですから。結局はオーディションもネタで決まるので、勝ち上がるためという意味でもネタが100%だと思うんですよ。僕、オーディションむちゃくちゃ嫌でしたもん。笑い飯、麒麟、千鳥、同期でもNONSTYLEとかがいる中で、ピン芸人で勝ち抜かないといけないわけですよ。落ちるっちゅうねん。
 

――コンビと戦うとなると、ピン芸人は不利に感じます。ピン芸にしかない魅力ってどのような点ですか?

間が空くと無言になるんですけど、その時にさざ波みたいに笑いが大きくなると気持ちいいですね。コンビだと、どうしても片方が入ってくるのでそうはなりません。「大きく分けたら、全部のお笑いはあるあるネタだ」という意見があるんですけど、ピン芸は特にそれが強いと思いますね。いかにしっかりとあるあるを見せるか、そこから飛躍させるかだと思います。

誰よりもライブ配信している芸人

――最近の中山さんはYouTube公式チャンネル「中山功太のYouTube」で精力的にライブ配信をされています。どのような経緯で始められたんですか?

中山(以下、同) 
ゲストを呼んで生配信するお笑い番組をYouTubeでやりたいと思って、2020年にクラウドファンディングをしたんです。ありがたい話で資金が集まって、4月から番組を始めたんですけど、4月7日に緊急事態宣言が出たので7日間で終わってしまいまして。作家さんとスタジオにはすでにギャラを払っていたんですけど、そのスタジオもコロナのせいで潰れてしまいました。

番組ができなくなって、何しようか考えて、毎日最低1時間はYouTubeでライブ配信すると決めたのが始まりです。気付いたら誰よりもライブ配信してる芸人になってしまいまして。配信時間が吉本で一番という噂もあります。毎日ではなくなりましたけど、今でも配信はしてて、まさかここまで続くとは思わなかったです。

――一人喋りの配信以外にもいろいろされてますね。昨日(取材前日)は、睡眠中の音声をライブ配信されていました。

寝てる時にどんな寝言を言っているかとか、人間が寝つく瞬間ってわからないので、自分で聞いてみたいというのがありまして。今は睡眠も入浴もなんでもコンテンツにしてます。

――そこまでプライベートな部分を配信するのに抵抗はないんですか?

結婚していないから、奥さんも子供もいないし、今は彼女もいないので。彼女ができたら……。ちょっとそこを迷っているんですよね。正直に言って出てもらうのか。そこまでやってもいいと思うんですよ。正直、排便以外だったら何でも見せられますね。悪さしてないし。
 

――配信を続けてきたことでのメリットはありますか?

以前は単独ライブのお客さんが本当に少なかったんですけど、配信をきっかけに熱烈なファンの方が増えてくれて、席が埋まるようになってきました。R-1優勝した直後の単独よりもお客さんが増えています。基本的に皆さん年齢層が高めで、すごく民度が高い。ファンって自分を映す鏡だと思うので、これは僕の自慢ですね。コメント欄に荒らしが来ても、全員怖いぐらい無視するんで、荒らしに来た奴が恥かくんですね。
 

――配信の収益的にはどうですか?

ギリギリ家賃が払える程度です。でも、すごく助かってます。「カッコつけるな」って言われますけど、僕はお金にあまり興味なくて。そんなにいらないと思うんですよね。ふだんお金使うのはラーメン食べるぐらいやし、飲みに行く店も安いから。父親が社長で実家がお金持ちだったので、子供の頃に欲しいものは買って貰えたこともあって、今は本当に欲しいものがないです。そう言いながらも若干借金ありますけど。母親に仕送りできたらもういいですかね。この前、遠回しにほぼ「仕送りくれ」みたいなこと言われたので。

配信は新しいお笑いを発見できる場所

――勝手なイメージですが、中山さんはライブ配信とか配信者のことを嫌ってそうな印象がありました。

そうなんですよ。配信内容によって、タイトルに「非ユニーク」って付けるんですけど、これはこだわってますね。「今日はおもしろくない動画ですよ」と伝えてるんです。簡単に言うと「YouTuberのYouTubeですよ」と。YouTuberのこといつまでも言ってるのって、粗品(霜降り明星)と僕だけなんですけど。でもほかの動画はたぶんおもしろいです。
 

――配信を見てると、1時間くらいして「そろそろ終わりますね」と宣言した後に1時間、2時間続く時もありますね。

コメント欄で「せっかく今来たのに」とか言われると終わりにくいんですよ。

――サービス精神の高さに驚かされます。

まだウケたいだけじゃないですか。配信は笑い声0ですけど、たまに「お腹痛い」とか「コロナで入院してるのに、大声で笑って怒られた」ってコメントくれる人がいて、ほんまに声出して笑ってくれてんやって。

――4時間ぐらい一人で喋り続ける配信もありました。

4時間、ありますね。8時間やったこともあります。喋るのは好きなので。やっぱり、まだ考えたことがない日本語がいくらでもあるので、6時間やってそれが一回でも出れば意味があると思っています。
 

――お笑いを突き詰めていますね。

本来なら、僕はお笑いの好きさが沈んでいないとおかしいんですけどね。仕事が0で家賃を払えず、電気、ガス、水道全部止まった時もあって、公園で手や顔を洗ったこともありました。でもお笑いの好きさがひとつも下がらないんですよ。むしろ年々上がっていて。一番うれしいのが、見たことがないボケ方とかツッコミ方をできた時ですね。ライブ配信ってそれが発見できるので。そこは17ライブとかで、うっすら洋楽流してスパチャのお礼言ってるアホな配信者とはレベルが違います。
 

――お笑いの発見がモチベーションになっていると。

ものすごくなっています。最近は48℃のお風呂に入りながらの配信もあるんですけど、極限状態で喋っていると、たまに自分の能力を超えた発言をできることがあるんですね。それがめちゃくちゃうれしいんですよ。今は久保田(とろサーモン)のラジオにゲストで呼んでもらってますけど、あいつとはふだんも飲みに行くし、一緒に旅行にも行きます。何でかというと、あいつはとんでもない芸人なので。会話していると、自分が今までできなかったであろうレベルにいけることがたまにあるんです。だから彼は手放さないですね。

――最近の中山さんは配信以外でも活躍の場が広がってきていると感じます。

ありがたいですね。本当に今は好きなことをやれているので、あんまり不満はないです。正直に言うと、年齢とか考えて、今からテレビに出てどうなるというのは考えていないので。呼んでくれたらホイホイ行きますけど。
 

――もう「売れたい」という気持ちはないということですか?

もうないんじゃないですかね。僕が芸人になりたての頃はテレビがすべてでした。テレビっておもしろいものやし、とんでもないものだったんですけど、そうじゃなくなってきてる。テレビは変わらずおもしろいんですけど、見る側の選択肢が増えているので、全部の娯楽の中でテレビだけを目指す、とはならないですね。選択肢が増えている中で、自分を見てもらえるのがYouTubeや単独なので、そこの絶対数をじりじりと増やしていけたらな、というのはありますね。

取材・文/内田陽 撮影/佐賀章広