2024年5月30日(木)〜6月9日(日)に東京・よみうり大手町ホールにて上演される三人芝居『怪物の息子たち』。東映プロデュースによる少人数芝居企画で、脚本・木下半太と演出・毛利亘宏(少年社中)が手掛ける。

稽古開始直前のタイミングで、主演・崎山つばさにインタビュー。三人芝居への意気込みや、共に三兄弟を演じる安西慎太郎と田村心への印象、自身の家族に関するエピソードなどを聞いた。

ーーまずは、脚本を読まれた感想を教えてください。

高度な台本だなと感じました。三人芝居ということで、メインで演じる役以外の登場人物も演じるんですが、その演じ分けが面白くもあり難しさもある。壮絶な物語なので感情が忙しい。息子役でありながら、ある時は父親にもなりますし、また別の人物のときもあるので、組み立てていくのが大変そうだなと思いつつ、もちろん楽しみなところでもあります。ワクワクしていますよ。意外と、演劇で苦しんでいる自分が好きなんです……ドMなんでしょうね(笑)。苦しめば苦しめられるほど「いいぞ!」と思えますし、その分いい作品になるのではないかと。

崎山つばさ

崎山つばさ

ーー神話や落語をモチーフにしたストーリー。崎山さんが演じる三兄弟の長男・蒼空は一筋縄ではいかない人物ですね。

謎が多いですね。三兄弟の中でも、蒼空は感情や過去をあまり表に出さないタイプ。むしろ、出し切って今に至る……という人物だと思います。約2時間もない舞台ではすべて見せることは不可能ですし、この台本に描かれていない人生も彼はもちろん送っている。舞台上では直接見せずとも感じ取ってもらえるような、余白みたいなものがうまく表現できたらいいですね。

ーー世間一般的には理解されがたい心情も描かれそうですが、このような役柄を演じる際はどんなことを感じていらっしゃるのでしょうか。

やっぱり、しんどいです。でも、しんどい人をしんどいままに演じるのは違う。例えば人を殺める人物を演じるからといって実際に人を殺めるわけではないですけど、人を殺めることができる気持ちにならないといけない。『怪物の息子たち』っていう世界観の中で怪物を宿す瞬間もあるとしても、僕自身は怪物と出会ったことがない。実体験のない状態で行き着くためには、並大抵のしんどさではできないんですよね。今回は特に、冒頭の瞬間にこれまでの人生をどれだけ纏えているかというのが重要になりそうです。始まった瞬間にはすでに2時間分の芝居をしていた、みたいな……まだ稽古に入っていないのでわからないですけど、今の時点ではそういう気持ちではあります。とにかく、僕と安西と田村心だからこそ生まれる化学反応が今から楽しみですね。

ーー安西さんと田村さんのお二人と演じる兄弟役のビジョンは?

全然想像できていないんですよ。先に三人芝居としてお話をいただいて、後から2人と共演できることを知ったんです。意外と交わっていない人たちなので、どういう空気感になるんだろうと。稽古でどんな会話するんだろう(笑)。

崎山つばさ

崎山つばさ

ーー今の時点で、お二人への印象をお聞かせください。まずは、安西さんについて。

安西はずっと共演したかった人物で、“芝居”という言葉がよく似合う。ミュージカル『テニスの王子様』の演技は(アンダースタディとして)間近で見ていましたし、観劇した「舞台『野球』飛行機雲のホームラン 〜 Homerun of Contrail」も印象的でした。彼と対峙したときに自分にはどんなものが生まれるのか興味があります。そういえば、あるオーディションで一緒になったことがあって、たまたま二人一組で芝居をしたこともありました。結構前のことなので、安西は覚えてないかもしれませんが。

ーー田村さんは、作品をご一緒するのはかなり久々でしょうか?

じつは田村心も、がっつりと一緒に芝居するのはほぼ初めてなんですよ。いろんなジャンルの作品に出ているし、裏方スタッフもやっていたこともあって、苦みもちゃんと知っている役者。後輩気質で末っ子っぽい人柄は、今回の役にも良く作用しそう。この3人が三人芝居をやるというところに大きな意味があると思っています。

ーー父と子について描かれる本作。崎山さんご自身にとって、父の存在とは?

父が書いた歌詞を、僕が歌う関係性です(笑)。アーティスト活動を始めるまで、父と子としてはそれほど近い距離感ではなかったかもしれません。用事があったら喋るけど、雑談は母のほうがする機会は多かった。一緒にものづくりをしたからこそ、新しい関係が生まれました。うちの場合、父は最後に出てくるボス的存在なんです。小さい頃、何か悪さをしたときに母が注意してもきかないときは父が出てくる……って話を兄から聞いてました。というのも、僕はものすごくいい子だったので(笑)、悪さをしなかったんです。反抗期もなく、真ん丸で育ちました。親と喧嘩したこともない。

崎山つばさ

崎山つばさ

ーーちなみに、お兄さんとはどんな関係ですか?

僕が二十歳になって一緒にお酒を飲むようになって。そこでようやく兄弟らしくなれた気がします。昔は、父より兄のほうが怖かったです。6歳離れているので子供扱いされるし、僕が小学生のときには兄が反抗期真っ只中。部屋が隣同士だったんですけど、僕がちょっと物音を立てると、壁を叩かれて注意されていました(笑)。兄は多感な時期を過ごしたみたいですけど、うちの家族のいいところって、それを笑いに変えるんですよ。壁に穴が開いた部分には、兄の名前と「14歳の反抗」ってタイトルがつけられていました(笑)。当時は近寄りがたい存在だったので、そのときの畏怖みたいなものは『怪物の息子たち』でも照らし合わせながらやれるかもしれませんね。

ーー上演時期はちょうど梅雨あたりですが、どんな気分転換をされていますか?

ジメジメするのは苦手ですね。うーん……映画を観る。僕はぜひ東映さんに任侠ものをもっとたくさん作ってほしいんです。映画『帰ってきた あぶない刑事』も観たい。

ーー任侠ものも『あぶない刑事』シリーズも、ジャンルとして惹かれるものがある?

自分と一番かけ離れているからだと思います。もし手にできそうだったらあこがれていない気がするんですよね。テレビドラマの『あぶない刑事』で演じていた舘ひろしさんや柴田恭兵さんは当時30代半ば、今の僕は同世代ですが自分があの雰囲気を出せるかと言われたらできないと思うんです。だからこそ、あこがれでもあります。

ーー侠客を演じた舞台『死神遣いの事件帖-鎮魂侠曲-』も、どこか任侠ものに通じる雰囲気がありました。

侠客の矜持がリンクするところもあったので、庄司新之助をやるときには割と役作りのヒントにしていましたね。『仁義なき戦い』シリーズや『県警対組織暴力』とか。“しにつか”も本作と同じく毛利さんが演出だったのですが、凄みの利かせ方は任侠作品を見て勉強するといいかもねと教えていただいたんです。毛利さん曰く、どうしても僕の地が出てしまうと。庄司新之助が優しさを持ったキャラクターだった分、もっと圧が欲しいとおっしゃっていた記憶があります。

崎山つばさ

崎山つばさ

ーーさまざまな役柄、多岐にわたるジャンルで活躍されていますが、プロフィールによると本格的な俳優デビューから今年で10年とのこと。節目として何か意識されていることは?

ありがたいことに、ファンの方たちの声で「10年なんだ」という気持ちになることもありますが、個人的には節目という感覚は特にないんです。あったほうがいいのかもしれないんですけど……それよりも、目の前の仕事や役に向き合いたい気持ちがあって。役者としてはまだ10歳、小学校も卒業できていない年ですし!

ーーではこの先、やってみたいことは?

いっぱいありますよ。一つ挙げるとしたら、根っからの極悪人や殺人鬼のような役をやってみたい。演じていない職業もたくさんありますし、まだまだ経験していないことは多いです。

ーー最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

『怪物の息子たち』というタイトルということで、“怪物”の物語でもあり家族の話でもあります。見ている人の中にも“怪物”を宿している人がいるかもしれないし、自分が気付かない“怪物”を秘めている人もいるかもしれない。ダークで、えぐみの強いお話ではあるんですが、優しさもあり温かさも感じる作品。見る人によってそれぞれ異なる“怪物”が生まれると思うので、ぜひ劇場で体感していただけたら嬉しいです。

崎山つばさ

崎山つばさ

 
ヘアメイク:Inc. GLEAM
スタイリスト:MASAYA(PLY)
 

取材・文=潮田茗    撮影=福岡諒祠