【取材の裏側 現場ノート】「年末からのことがウソのようですよね。僕が黙っているということは、イコール今の全日本プロレスは平和だということです」

 先日、青柳優馬との会話の中でこんな言葉が出た。確かに1月から全日本の記事に並んだ「乗っ取り」「黒幕」「洗脳」「退団」というスキャンダラスな見出しは一切消え、史上最年少3冠ヘビー級王者・安齊勇馬の誕生や宮原健斗の優勝で幕を閉じた春の祭典「チャンピオン・カーニバル」を報じる〝通常モード〟に切り替わった。

 原因は、3月30日大田区大会での3冠王座陥落を機に王道マットを撤退した中嶋勝彦だ。昨年11月に3冠王座を奪取すると、謎の「闘魂スタイル」を掲げ団体をかき回した。時を同じくして福田剛紀社長が迷走モード。元日にはバカ殿様の格好で動画に出演したことが大きな波紋を呼び、同社長に見切りをつけた石川修司らが団体を去った。

 しかも諏訪魔専務の告発により、中嶋を裏でコントロールし、福田社長の個人アドバイザーを務める黒幕が存在することが明らかとなり、選手、スタッフらは猛反発。特に優馬は急先鋒として批判を繰り返してきた。

 まるで昭和のプロレス界をほうふつとさせる一連の出来事を経て、王道マットはどうなったのか。優馬が「会社にも選手にも大打撃だったと思いますが、今は内部もそうですし、選手、ファンも含めて一体感が生まれたように感じます」と認めるように、団体が一つになったのは事実だ。

 一方で、優馬は「ないとは思いますが…」としつつ「これを見越してのあの行動だったとしたら、社長は天才ですよ。もう僕は二度と逆らえません」とも。すべて福田社長が団体をまとめるために描いたものだとしたら、結果的には大成功だったということになるが…。

 ただし、諏訪魔と優馬は平和な全日本マットにどこか退屈してそう。「劇薬は賞味期限が短いので、また次の劇薬が現れるでしょう。なので今は平和な時間を満喫しています」と諏訪魔が言うように、中嶋に代わる劇薬は誕生するのか。

(プロレス担当・小坂健一郎)