世界三大オークションのひとつであるサザビーズにおいて、イタリアの名車ランチア「ストラトス」が出品されていました。いったいどのような個体なのでしょうか。

ランチアがWRC制覇のために情熱を注ぎ込んだストラトス

 モータースポーツで数多くの功績を残してきたイタリア車ですが、そのなかでもラリー界に大きな影響を与えたメーカーにランチアがあります。

 現在のランチアは「イプシロン」のみがイタリア本国で正規販売されているだけですが、1960年代から1970年代まではラリー界で華々しく活躍していました。

 1950年代にはF1にも参戦経験がありましたが、思うほど戦績が残せず、1960年代に主戦場をラリーに移すと目まぐるしいほどの活躍を見せます。

 1966年に投入した「フルビア・クーペHF」の活躍は、フラワーラリーやモンテカルロラリーで勝利するなどラリーシーンにおけるランチアの基盤を築き上げました。

 そのフルビア・クーペHFで得たノウハウを注ぎ込んだのが、1970年にトリノ・モーターショーで導入された「ストラトス」になります。

 ストラトスのボディデザインはランボルギーニ・カウンタックを手がけたマルチェロ・ガンディーニ氏が担当することで、デザインはラリーカーとは思えないほどの流麗なボディとなりました。

 フレームはモノコックとリアサブフレームを組み合わせたもので、パワーユニットはミッドシップに配置するなどレーシングカーと呼ぶに相応しい構成です。

 パワートレインもフェラーリ「ディーノ246」と同じ2.4リッターV6自然吸気エンジンを配置し、最高出力は190psを誇ります。

 また、クーペのような美しさを兼ね備えながらもラリーカーとしての資質も十分で、全幅は1750mmもありながらホイールベースは軽自動車よりもはるかに短い2180mmと現在のクルマでは考えられないようなスペックです。

 しかし、この異様ともいえるスペックが功を奏し、前後オーバーハングが短くショートホイールベースによる回頭性の高さは、ラリー界で大活躍し1974年から3年連続でタイトルを獲得するほどです。

 ただし、ショートホイールベース、ミッドシップハイパワーエンジンはとにかくクイックで、アマチュアドライバーでは手に余るクルマだったようです。

 このようなランチアの顔ともいえるストラトスが、オークション最大手の「サザビーズ」に出品されて話題になりました。

1975年式最終モデルはレストアなしの極上個体 落札額は?

 今回の個体はランチア「ストラトスHFストラダーレ」で、ルーフスポイラーとウインドディフレクターを省略した1975年の最終モデルです。

モナコで開催されたオークションに出品された1975年式「ランチア・ストラトスHFストラダーレ」。ホイールベースの短さがわかる Paolo Carlini ©2024 Courtesy of RM Sotheby's

 ボディカラーはアズーロキアーロ(ライトブルー)で、走行距離は1万2000km、5速マニュアル仕様となっています。

 特筆すべき点は購入以来、修復等をおこなっていないノンレストアの状態のまま維持していたことです。

 エクステリアの塗装も良好な状態で、グラスファイバー製のパネルにも目立った割れはありません。

 インテリアも良好な状態で、カーペット、シートシェル、ダッシュボードに至るまで、黒いアルカンターラで覆われています。
 
 なお、今回の個体は最初のオーナーが30年保管し、その後3人のオーナーに渡りました。

 またランチアによってクルマの検査を受けた際には、492台のみの生産台数のうち323台目の個体ということが確認でき、証明書が付属しています。

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 今回のオークションでは、59万ユーロ(約9952万円)で落札される高額取引となりました。

 ラリーカーにレーシングカーの技術をフィードバックした、贅の限りを尽くしたロードバージョンのストラトス。

 他のスポーツカーや名ばかりの限定モデルとは一線を画すモデルの極上車ということだけに、正しく評価がされたようです。