世界最大気筒数のエンジンを搭載する乗り物として、ギネス世界記録を樹立したホワイトロック「ティンカートイ」が、老舗オークションハウスのボナムズに出品されました。4.2リッター48気筒エンジンを搭載し、公道走行も可能という芸術品の気になる出来栄えとは?

世界で一番複雑なバイク用エンジンの誕生秘話

 世界最大の気筒数を持つエンジンを搭載した乗り物として、ギネス世界記録を樹立したホワイトロックの「ティンカートイ」。イギリスでバイク屋を営むサイモン・ホワイトロックさんが手がけたこのカスタムバイクが、先頃、老舗オークションハウスのボナムズに出品されました。

 サイモンさんが最初に手がけたのは、カワサキのバイクに積まれた直列3気筒エンジンを、直列4気筒に改造することでした。

 その後、カワサキの3気筒エンジンを3基連結した9気筒バイクを製作したり、さらには直列7気筒バイクもつくってみたりしたそうです。

「世界で最も複雑なバイク用エンジンをつくろう」との決意から、世にも奇妙な48気筒バイクを製作したサイモンさんですが、実はその数年前から、カワサキの2ストロークエンジンの改造を通じてノウハウを蓄積していたのです。

 サイモンさんがなぜ48気筒のホワイトロック「ティンカートイ」をつくろうと思ったのかは謎のまま。とはいえ、少なくともこのバイクが存在するおかげで、世界のバイク好きやメカ好きは笑顔になったことでしょう。

「ティンカートイ」は、これまで世に送り出された中で最も複雑なカスタムバイクの1台でしょう。すべてはエンジンから始まり、他の部分はエンジンを中心に組み立てられた、といっても過言ではありません。

 エンジンは、カワサキ「KH250」に搭載される2ストロークの3気筒エンジンを6バンクに8基ずつ配置。総排気量は4.2リッターで、当初は50ccの2サイクルエンジンをスターターとして使用していました。

 ただし、この50ccエンジンはパワー不足と判断され、後に125ccの2ストローク単気筒に換装。これが現在もスターターモーターとして活躍しています。

 エンジンの周囲にはカスタムフレームが備わり、フロントエンドはホンダ「ゴールドウイング」のものに予備のスプリングを装着、トランスミッションはBMW「K100」のものを流用しています。

 シリンダー上部のバンクの間には、上部に沿って伸びる燃料タンクのように見えるものが備わっていますが、それはあくまで点火システムのカバーに過ぎません。

 実際の燃料タンクは、中央と下部のバンクの間に目立たないよう配置されています。なおオルタネーターは、クルマのものを流用しているそうです。

●スペックだけでははかれない“芸術品”の価値とは

 1998年にスタートした「ティンカートイ」の製作は、2003年までには完了せず、最終年でも作業の80%までしか完了しなかったそうです。

「ティンカートイ」の重量は堂々の600kgで、イギリスでは公道走行も可能。注意点は、ハンドルを握るためには長い腕が必要なことと、エンジンの排気ヘッダーに足が触れてヤケドしないよう気をつけなければならないことです。

 サイモンさんは、排気システムを取りつけずに初めてエンジンを始動させた際、「まるでロールス・ロイス『マーリン』のようだった」と語っています。

 最近、改めてエンジンの始動を試みたようですが、キャブレターの不具合により失敗したとのこと。ちなみに、最後にエンジンを点火したのは2015年のことだそうです。

 そんな「ティンカートイ」が、先日、イギリス・スタッフォードで開催されたボナムズのオークションに出品されました。サイモンさんは、「『ティンカートイ』復活のためなら落札者への協力を惜しまない」とコメントしているのだとか。

 予想落札価格は4万〜6万ポンド(約794万円〜1191万円)と見積もられています。性能うんぬんではなく、サイモンさんが生み出した“芸術品”をどう評価するかによって価格は大きく左右されそうです。