芸能界復帰は「全く考えていない」

 ジャニーズの性加害問題が表面化して事務所は解体。被害者への補償業務に特化する「新会社」が設立されたが、いまだ世間からは批判の声が聞こえる。はたして被害者救済は進展しているのか。自ら芸能界から身を引いた、新会社の代表・東山紀之が補償贖罪の現在地を語った。【前後編の前編】

 ***

 自らすべての芸能活動を引退すると決断したのは昨年末のことでした。以来、被害者の皆さんへの補償業務に専念する日々を過ごしていますが、本当に先が長く困難を極める活動だということを痛感しています。

 補償業務を終えた後、再び芸能界に復帰する考えはあるのかなどと聞かれることもありますが、とんでもないことで、今、そのようなことは全く考えておりません。とにかく被害者の方々にとことん向き合い続け、補償業務を全うしていく覚悟です。

〈そう話すのは、旧ジャニーズ事務所「SMILE-UP.」(以下、スマイル社)の社長・東山紀之氏(57)である。〉

「二次加害を擁護」と批判の声が

〈故・ジャニー喜多川氏による所属タレントへの性加害事件。その補償業務に特化したスマイル社の代表に就いた彼の発言に今、注目が集まっている。イギリスの公共放送BBCが、一連の性加害事件を報じた番組の続編「捕食者の影 ジャニーズ解体のその後」を3月30日に放送し、東山氏が単独でインタビューに答えたのだ。

 番組の中で東山氏は、ジャニー喜多川氏の他に2名の事務所スタッフが性加害の当事者であることを認めた。そのうち1名は東山氏の元マネージャーであったと報じられ世間を驚かせたが、スマイル社として被害者からの訴えがあるまでは刑事告発をしないとした姿勢に、批判が相次いでいる。

 また性加害被害者が、SNSを中心に“証言は虚偽”“金銭目的だ”などと誹謗中傷を受けていることについても問われた東山氏。その際、「言論の自由もあると思う」「誹謗中傷の線引きは難しい」などと話した様子が、二次加害を擁護しているのではないかと指摘する声も多い。

 例えば朝日新聞(4月18日付)は、この発言を「旧ジャニーズ 被害の重み向き合って」と題した社説の中で取り上げ、被害を打ち明けようとする人たちを、尻込みさせていると批判した。〉

「全く気が付かなかった」

〈本気で被害者の救済を考えているのか。その姿勢に疑念の目が向けられているわけだが、BBCのインタビュー後、改めて東山氏に真意を尋ねた。〉

 私自身、かつて自分を担当していたマネージャーが、ジャニー喜多川氏と同様に、性加害の当事者だったということを聞いた時、本当に驚きました。

 旧ジャニーズ事務所では、担当マネージャーは交代制を取っていました。30年くらい前に私のマネージャーをしていた人物が性加害を行っていたということでしたが、私の知る限り当時からそのようなそぶりはなく、全く気が付かなかったというのが正直なところです。

 代表の私が「知らなかった」では世間の皆さんからすれば意味が分からない、納得できない部分があると思います。なので、昨年8月に再発防止特別チームからご提言をいただいて以降、弊社内で作った、徹底した被害者のプライバシー保護の体制や、なぜ会社が刑事告発へ動かなかったのかについてご説明をさせてください。

なぜ刑事告発をしないのか

 元マネージャーの加害が発覚した経緯ですが、昨年初夏に内部通報があり、すぐに顧問弁護士によるヒアリングを行い、さらに再発防止特別チームにもご報告しました。その後、私は昨年8月末に社長に就任することが決まり、その時点で私の知るところとなったのですが、肝心の被害者ご自身が申告してきていないという状況でした。

 念のため申し上げると、弊社では被害者のプライバシーを確実に守るという体制を取っていますので、私は今でも、この件の被害者が誰なのかについては、一切知らされておりません。

 また、今回のBBCのインタビューの後、なぜわれわれが会社として警察に情報提供や刑事告発をしないのか、そう批判されていることも承知しています。

 私自身、被害者への補償を行う立場として、今回のケースについて元警察関係の専門家や性被害に詳しい弁護士の方々と、何度も相談を重ねてきました。

 彼らの意見を集約すると、このようなケースの場合、今の日本の法制度では被害者ご自身が警察などに救済を求める行動を起こしてはじめて、われわれの協力が効果を生むとのことでした。

 また被害者の方が刑事告訴を望んでいるかどうか分からない状況下で、われわれの独断で警察などに情報を提供すれば、被害者のプライバシーが守られなくなってしまう恐れもある。そのような点をさまざまな角度から検討し、勝手に事務所が刑事告発することはできないと判断したのです。

 もちろん今後、被害に遭われた方から申告を受ければ、捜査当局への告発など全面的に協力していきます。決してこのことをなかったことにするつもりはありません。その点をご理解いただければと思っています。

BBCのインタビューについて「非常に残念」

 またBBCのインタビューでは、私が被害者への誹謗中傷を容認しているのではないかとの誤解が生まれ、バッシングが起きてしまっています。そこで私の真意を、この場で改めてきちんとお話ししておきたいと思います。

 一見、華やかな芸能界で活動をしている人たちは、常に誹謗中傷にさらされています。何を言ってもたたかれる、そんな世界に生きている実態があります。私自身、たくさんのうその記事やSNSの書き込みを見てきて「なんとかならないのか」と弁護士の先生方に相談しても、いつも「言論の自由がある」と返されてきました。

 今回BBCのインタビューで「言論の自由」と口にしたのは、そのことが念頭にあったゆえでした。世間の皆さんに伝えたかったのは、誹謗中傷を行う人たちが「言論の自由」の名の下に独善的な正義を振りかざす怖さ、ひいては、そのことで傷つき命を絶ってしまう方もいる現状を、なんとかしたいということでした。

「言論の自由」という大義名分があるからこそ、誹謗中傷の対策を進めることには相当な難しさがある。けれども、被害者への誹謗中傷については、絶対になくさないといけない。これが私の発言の真意でした。

 事実、BBCのインタビューで私は「誹謗中傷はなくしていきたいと、僕自身も思っています」と語っていますが、残念ながら、その部分は放送で削除されてしまいました。実際の放送でなぜか省略されてしまったことで、私が誹謗中傷を否定していないと思われてしまっているのです。

 BBCのインタビューも、少しでもわれわれの活動を理解してもらえればと思ってお受けしましたが、このような結果になって非常に残念でなりません。

 この件に対しては、私自身への誹謗中傷がSNSなどを含めてものすごい数、寄せられており、苦しんでいます。イギリスで放送についての監督を行う独立行政機関である放送通信庁に、今の状況を説明することも考えています。

 もっとも、以前より被害者の方々のほうが、私とは比べ物にならないほどの誹謗中傷を受けて苦しんでいるわけです。どうか被害者に対する誹謗中傷は、本当にやめていただきたいと思っています。

 後編では、社長を引き受けることを伝えた際の妻・木村佳乃の反応などについて、東山の独占告白を引き続きお届けする。

「週刊新潮」2024年5月2・9日号 掲載