(写真はイメージ/GettyImages)

 勉強や仕事中に集中力が途切れてしまった時、目の前のことに集中しよう努力してもうまく行かないことがある。こんな時、どうすれば集中力を高められるのだろうか? 順天堂大学医学部教授・小林弘幸さんによると、ガムを噛んだり、YouTubeを観たりするなど、行動によって集中力を高める方法があるそうだ。小林さんの著書『自律神経の名医が教える集中力スイッチ』(アスコム刊)から、集中力を高める行動を紹介する。

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■ガムを噛めば集中力が高まる

 ガムには持続集中力を妨げる要因となる強いストレス症状をやわらげてくれる効果もあることがわかりました。ここで大切なことは、噛みごたえのあるものを口にしましょうということではありません。どんなものを食べるときでも、一定のリズムでなるべく長く噛むことです。咀嚼するリズムが集中力を強化します。

 一定のリズムで噛む習慣がつくと、持続集中力の強化につながるだけでなく、集中に至るための自律神経のバランスを整えるスイッチの役割も果たしてくれるのです。授業中やテスト中にガムを噛むというのは、現実問題として難しいかもしれませんが、その直前にガムを噛むことによって脳を活性化させ、集中しやすい状態を作っておくことならできるのではないでしょうか。

 噛む回数を増やしてくれる食べ物としてイメージしやすいのは、スルメやフランスパン、おせんべいなどの硬いものですが、私がおすすめするのはガムです。かつて私も、手術前にはガムを噛むのが習慣でした。私だけでなく、じつは執刀前にガムを噛む外科医は多くいます。

■YouTubeの『勉強ライブ』を観て集中する

 じつは最近、YouTubeなどで『勉強ライブ』といった名前の動画が流行しています。これは、ただひたすら無言で勉強している人が映っている動画です。集中している人を目にすることで、ミラーニューロン効果により、自分も集中できるといわれています。

 東大出身タレントの伊沢拓司さんらが運営するQuizKnockの勉強LIVE動画などは100万回再生を超えています。集中が集中を呼ぶ「ミラーニューロン効果」とは、そばにいる他人の行動を見て、自分も同じ行動をとっているかのように共感する効果です。

 リモートワークよりもオフィスのほうが集中できるという人は、同僚たちが仕事に集中している姿を目にし、ミラーニューロン細胞が活性化され、「自分も集中する」という意識が生まれやすいからではないでしょうか。学生時代に自宅で勉強するよりも、図書館や塾の自習室で勉強をしたほうが集中できたというのも、ミラーニューロン効果かもしれません。

 つまり、集中したいときには、すでに集中している人のそばで作業をするのがひとつの手段なのです。

■「7階までは階段」の選択が集中力を底上げする

 人間の体はアクティブに動くと交感神経が優位に、そして休息モードに入ると徐々に副交感神経が優位になっていくのですが、運動をすることによって、なかば強制的にその自律神経のサイクルを作ることができます。

 自律神経の乱れは、おもに交感神経が過剰に活動することによって生じるケースが多いのですが、運動後の休息がそれまで影を潜めていた副交感神経の活動を活性化してくれるということ。だから、運動は必要なのです。

 運動と聞くと、「つらい」「めんどうくさい」「ハードルが高い」といったマイナスのイメージを抱く方が多いと思います。運動が苦手な方は、「できればしたくない」と強く願っていることでしょう。

 でも、そんなに身構える必要はありません。現状の生活に、体を動かすプラスαの行為を少し加えるだけでも、充分に効果があります。エレベーターと階段のどちらを使うかでも、健康寿命に違いが出ます。

 私も健康のために、7階までは階段を使うようにしています。最初は息が上がったとしても、階段の上り下りを毎日続けると慣れてきます。3階くらいから始めて、7階を目指しましょう。

■ランニングやリズム運動が集中力を高める

 みなさんは「セロトニン」をご存じでしょうか。これは脳内の神経伝達物質の一種で、喜びや快楽などをつかさどる神経伝達物質のドーパミンや、恐怖や驚きなどの感情をコントロールするノルアドレナリンを制御し、精神を安定させるホルモンです。

 心を穏やかにする働きがあることから、通称「幸せホルモン」とも呼ばれています。セロトニンは、交感神経と副交感神経のバランスを保つことに貢献してくれるので、自律神経と集中力の安定には欠かせません。

 セロトニンは、パソコンやスマホ画面の見すぎ、運動不足、夜更かしなどによって低下するといわれています。その一方、規則正しい生活を送り、日中は陽の光を浴び、適度な運動を行うと、増加することがわかっています。この適度な運動のうち、大きな効果があるとされるのがリズム運動です。

 手軽に取り組めるものをいくつか紹介するので、自らセロトニンを増やしていくことに努めましょう。

  • ウォーキング・軽いジョギング

 体に大きな負荷をかける必要はありません。いずれも、「ちょっと息が弾む」くらいの強度がベスト。一定のリズム、同じくらいの歩幅で、歩いたり走ったりしてください。

  • ダンス・体操

 こちらも動きがハードなものは不要。専門的なダンスを習わなくても大丈夫です。手と足を中心に、全身をリズミカルに動かすことができていれば、オリジナルのダンスで構いません。ラジオ体操や太極拳でもOKです。