田尾安志氏は難病「心アミロイドーシス」と闘いながら評論活動を続ける

 中日、西武、阪神で活躍した元外野手で、楽天初代監督も務めた田尾安志氏は現在、国指定の難病「心アミロイドーシス」と闘いながら野球評論家として活動している。加えて自身の公式YouTube「TAO CHANNEL」では古巣の阪神、中日の試合解説動画などを精力的に配信中だ。「心アミロイドーシスには症状を進行させない薬が出ています。早期発見が大事なんです」。病もエネルギーに変えて、野球人生をさらに突き進んでいる。

 病気が見つかったのは2022年だったという。「ちょっと左手がしびれるなぁってところから兵庫医大で診てもらった。頸椎とかが悪いのかなと思ってね。検査の結果、頸椎は全然何ともない。それでしびれるのなら心臓関係が多いということで重点的に調べたら心アミロイドーシスではないか、という話になった」。心臓の負担が大きくなっていることを示す数値が異常に高く「今すぐ車椅子でもおかしくないって言われたんです」。

 心アミロイドーシスはアミロイドと呼ばれる異常なタンパク質が心臓に沈着する病気。それが重なり、厚くなっていくと、心臓の機能が低下して心不全を引き起こす可能性がある。「以前は、それがわかっても薬がなかったそうです。でも現在は、それ以上、症状を進行させない薬が出ており、早めにわかれば、それで命を落とさずに済む方向になってきた。僕の場合は検査入院の結果、まだ物凄く初期でした」。

 2022年5月30日、田尾氏は「TAO CHANNEL」で難病罹患を敢えて公表した。心アミロイドーシスには早期発見が大事であること、以前と違って薬があることなどを広く世の中に知らせるためだった。「このことを知っている人は少ないですよね、周りの人にも伝えた方がいいですよねって先生に話したら『そうしてくれたらありがたい』ということだったのでね、微力ながら、やれることはやらせてもらおうと思ったんです」。

 田尾氏は病と闘いながら、評論活動も「TAO CHANNEL」の配信も普通に続けている。毎日、薬を服用することで、数値も悪くなることはなく、ほぼキープされているそうだ。実際、テレビ解説でも、YouTubeでも、病気を患っていることを感じさせないほど元気な姿を見せている。

 2020年2月に開設した「TAO CHANNEL」はチャンネル登録者数10万人と大人気だ。「長男が『YouTubeをやったら』って言ってきたのがきっかけです。僕は全くわからなかったんですけど『面白いよ、やり方を教えるから』って言うので始めたんですよ。最初はちょっとしんどいなぁって思っていたんですけど、やっているうちにだんだん面白くなってきました」という。古巣の中日関係者をはじめ、多くの野球仲間に出演してもらっての楽しい番組作りを心掛けている。

 試合解説動画も力が入る。「以前より時間ができたので、逆に野球をじっくり見れている。細かく分析したりするので、自分のためにもなっているなと思う。前よりも野球を見るのが楽しくなった。選手の頃はテレビで野球を見ていても、このピッチャー、何か癖がないかなととか、そういう見方をしていたんでね。今は監督目線の見方をすることが多いです」。とにかく、何事にも精力的だ。

「勝ったり負けたりするチームの監督をやりたいなあ」

 1954年1月8日生まれの70歳。昨年末に1953年(昭和28年)度に出生した元プロ野球選手の親睦団体「プロ野球28会」のイベントが甲子園球場で行われ、田尾氏も参加した。「中畑(清、元巨人)とかメンバーと古稀を祝おうということでやったんですけど、みんな現場復帰する気持ちだけは持っておこうという話になった。なる、ならないは別にして、それくらいの気持ちでないと衰えるよってね」。そして、こう口にした。

「あの楽天での1年間は監督という名前はついているけど、まだ監督までになっていなかった。本当の勝負ができる監督ではなかったのでね。だから、いつも思うのは5割くらい勝ったり負けたりするチームの監督をやりたいなあって。そうすると本当の勝負になる。充実感もあると思う。やり方によってプラスにも働くし、マイナスにもいってしまうから間違わないようにしなきゃいけない。たぶん、そういうふうな気持ちになるのだろうなって思うんですよ」

 田尾氏の野球人生には反骨精神が支えになったケースが多い。強豪校から相手にされなかった弱小高校で大阪大会ベスト4に勝ち上がったし、大学では肩を痛めて投手として出場不能になっても、打者ではリーグ戦の首位打者になった。プロでは指揮官に「アンダースロー用の代打要員」と言われて発奮し、新人王に輝いたし、両親と亡き弟に誓う有言実行で3割打者にもなった。さらには球団代表や監督、コーチとも対立しながら結果も出していった……。

 現在もまた病気と闘いながら、それをも力に変えている。「今、野球をずっと見ていて、いろんな監督を見ているけど、若い世代の彼らよりも僕の方がやれるんじゃないかなっていうのもありますよ。まぁ、そうやって思っている間は大丈夫でしょうね。この監督はすごいな、ばっかりだったら(評論とかも)やめた方がいいと思う。やっぱり自分だったらこうするな、とか、そういう違う考えがあるから面白いんですよ」。

 現役を引退してから33年、楽天監督を終えてから19年の歳月が経過しても、野球人・田尾氏のパワーは底知れない。イチロー氏(マリナーズ会長付き特別補佐兼インストラクター)が憧れた“円月打法の安打製造機”は、立場を変えても、まだまだ力を蓄えながら、いつも、今も闘っている。(山口真司 / Shinji Yamaguchi)