家事の中でもっとも負担が大きいのが料理。1日に3回もごはんタイムがあるとなっては、それだけでヘトヘト。夫が手伝う家事の割合が低いのも、料理ではないでしょうか。
夫は家事をしてくれるけれど…
『料理は妻の仕事ですか?』(KADOKAWA)は、料理を多方面から見なおした一冊。料理の概念そのものを覆(くつがえ)してくれたのは、本書の監修を担当するフードライターでコラムニストの白央篤司さんです。“手作りだからこその愛情”、“レトルトやお惣菜は手抜き”、等々、いったい誰が決めたんだ!という暗黙のルールや、妻を苦しめる罪悪感を、気持ちよく一掃してくれましたよ。
本書の主人公で著者のアベナオミさんは5人家族。人数分の食事を作るのだけでもう大変。「献立が思い浮かばない…何を食べたいのかもわからない」。もういや、ごはん作りをお休みしたい。そんなあなた、これからは堂々とお休みしちゃいましょう。
自炊力って何だろう
自炊と聞くと、手作りという言葉がまず連想されます。本来自炊の意味は、自分の食事のために自ら炊事、つまり調理を行うことです。本書に登場する「自炊力」は「いろいろなスキルの総合力」。ひとことに料理といっても、その中には様々な工程がありますよね。
本書による分類は以下になります。
「買い物に行って、その場で献立を考える」
「家にある食材とかけ合わせて何を作るか決める」
「食材の質と値段のバランスを考える」
「栄養バランスも気にかける」
「調理する」
「残ったものにそれぞれに適した状態でしまう、保存する」
この間に洗い物をする、ゴミを片付ける、等々の料理のサブ家事が加わりますから、料理などひとことで言っていられない労働力になるのです。
これを日々こなしている妻のスキル、つまり自炊力はかなりのもの。料理は必ずしも妻の仕事ではないし、料理があまり得意でない妻もいます。
単純に料理したくない日もあります。そんな時は出来合いのものでもいい、コンビニ飯でもいい。大切なのは、家族が食事を楽しくおいしくいただくこと。
夫や子供がそれぞれ自炊力をつければ、料理の大変さも理解してくれますし、妻の立場も変わってきます。まずは自炊力の自由さを知ってもらいましょう。
自炊力はこんなに自由
本書によると、「自炊をはじめるとして、作ってみたいものは?」の質問に対して「グラタン、おでん、カルボナーラ、揚げ出し豆腐、天ぷら、里芋の煮っころがし」などがあがったそうです。けっこうハードルが高いと思いませんか。なんとなく挫折への一歩が見えてきます。
「料理をしていない人だったら、『料理する』よりもまず『料理に近づいていく』ことからはじめてほしい」と本書。スーパーのお総菜に何か付け加えてみる。野菜を刻んでもいいし、缶詰のツナやコーンをトッピングしてもいい。
意外なおいしさを発見したら、そこから新たな工夫がはじまります。「レトルトや出来合いのものに加えるだけでも立派な調理であり、自炊の一環」という、本書が推す自炊力は実に自由で可能性に満ちているのです。
自炊力が家族の絆を底上げする
妻も夫もやがて歳を重ね、子供は巣立っていきます。年老いた夫婦のどちらかが倒れた時、子供がひとり暮らしをはじめた時。家族それぞれが自炊力をつけておけば、あわてずに対処できますよね。なによりも、料理をつうじて家族の個性が発揮されて、絆も深まるのではないでしょうか。
インスタント食品も、コンビニ飯も、ちょい足しや工夫次第で栄養価もアップ。本書であなただけの自炊力を極めてみませんか。
<文/森美樹>
【森美樹】
1970年生まれ。少女小説を7冊刊行したのち休筆。2013年、「朝凪」(改題「まばたきがスイッチ」)で第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)を上梓。Twitter:@morimikixxx