2024年5月17日より映画『ミッシング』が公開中だ。その目玉は石原さとみが、幼い娘が失踪したために際限なく憔悴していく母親を演じていること。
内容そのものも「二度は見たくないが、一度は絶対に見てほしい傑作」だった。
「港区臭が強すぎ」な印象
![『ミッシング』](https://joshi-spa.jp/wp-content/uploads/2024/05/sub1-1-585x390.jpg)
その理由を吉田監督は「すいません苦手です(笑)」「石原さんは華がすごい」「俺の映画はもっと地味、下町とか郊外とかそういうところが舞台の映画が多い」「石原さんはなんか港区臭が強すぎて(笑)」などと、完成披露試写会でぶっちゃけていたのだ(MOVIE WALKER PRESSよりコメント引用)。
吉田監督が「港区臭」と言ったのは、港区という場所の華やかさはもちろん、おそらく「港区女子」のイメージも石原さとみに重ねていたのだろう。
その言葉を失礼だと思う人ももちろんいるだろうが、ルックスはもちろん美しく、表向きはキラキラしている、パーティーで注目を集めるような役柄にこそ、石原さとみは合うという主張に同意できるという意見も、また多いだろう。
実際に「壊れた」と思わせた
![『ミッシング』](https://joshi-spa.jp/wp-content/uploads/2024/05/sub5-585x390.jpg)
そして、実際の撮影で石原さとみは監督に「壊れた」と思わせた。とある知らせを受けて警察署の階段を駆け上がってくるシーンで、最初のテイクでは石原さとみは涙目になりながらやって来たが、ややリアリティに欠けると感じた吉田監督は、「気持ちがぐちゃぐちゃになって、自分が何をしているのかも認識できなくなっている感じ」と伝えたという。
そのリテイクでは、石原さとみは階段の下で気持ちを作っていたため、なかなか姿を見せなかった。そして、いざ本番のカメラが回ったとき、さまざまな気持ちが入り乱れ、舞い上がったような状態になっていた石原さとみを見た吉田監督は「ああ、壊れたんだ!」と思ったそうだ。
「石原さんは悩んだ結果、正解を見失って、何かを降ろしてきたんだろうなと。あれを見た瞬間、怖かったけど、思わずOKと言った。演技とは思えなかった。あれは石原さんにしかできないことでした」とも、吉田監督は振り返っていたという。
撮影現場での本人と劇中の役柄が「つながっている」
![『ミッシング』](https://joshi-spa.jp/wp-content/uploads/2024/05/sub3-585x355.jpg)
もはや、どこまでが石原さとみの俳優としての力なのか、それとも撮影現場で見せた「素」の状態なのかも判然とはしないが、間違いなく言えるのは、石原さとみの俳優としての挑戦が、演じる役柄とシンクロしているということだ。
熱烈に役を希望する勢いを持ち続けているはずなのに、撮影現場では自信の欠片もないように見えたという石原さとみ。娘の失踪に世間の関心が薄れつつあるため、弱り切ると同時に常軌を逸した言動も取ってしまう劇中の主人公。それぞれが「つながっている」からこそ、「本当に壊れた」と思わせるほどのリアリズムを体現したのではないだろうか。
「新しい石原さとみを届けるギャンブル」は完全に成功
![『ミッシング』](https://joshi-spa.jp/wp-content/uploads/2024/05/subsub-585x390.jpg)
吉田監督は「新しい本で、石原さんをこっちの世界に引きずり込めないかなというある種のギャンブルというか。一緒に努力して、みんなが知っている石原さとみさんじゃないものを作るという自信はありました」とも完成披露試写会で語っていたのだが、その賭けは完全に成功したと言っていい。
実際の劇中では「港区臭」が皆無で、見る影もないどころか、吉田監督だけでなく観客にも「壊れた」のではないかと思わせ、石原さとみというその人のメンタルを心配させるほどの、まったく新しい石原さとみの姿がそこにあったのだから。「シャンプーではなくボディソープを使って傷めた髪」からも、そう思えるだろう。
吉田監督の過去作も「覚悟と負担」が必要な作品だった
![『ミッシング』](https://joshi-spa.jp/wp-content/uploads/2024/05/subsub2-585x390.jpg)
しかし、石原さとみは吉田監督の『さんかく』(2010年)から「沼」にハマり、『ヒメアノ〜ル』(2016年)で森田剛のイメージがシリアルキラーを演じたことで本当に覆され、「自分がそれまで携わってきた作品と、この監督の作品は、全然違う」と感じ、異常なほど惹かれていったという。
そのうえで、吉田監督に直談判し、役を勝ち取り、期待に応えるどころではない演技をみせた石原さとみの執念を、改めて称賛せざるを得ない。
そして、吉田監督(脚本も兼任)らしい、観客にもいい意味での覚悟と負担を強いる物語が作り込まれているからこそ、「二度は見たくないが、一度は絶対に見てほしい傑作」に仕上がったのだろう。
「これまでと違う」どころか、やはり「壊れた」ようにさえ見える石原さとみから最後まで目をそらさず、その姿を頭に刻み込んでほしい。
※吉田恵輔監督の「吉」は「つちよし」が正式表記
<文/ヒナタカ>
【ヒナタカ】
WEB媒体「All About ニュース」「ねとらぼ」「CINEMAS+」、紙媒体『月刊総務』などで記事を執筆中の映画ライター。Xアカウント:@HinatakaJeF