人気のコンパクトカーとして知られるホンダ「フィット」ですが、一時ほどの勢いはないようです。そう遠くない未来に出現するはずの“次期フィット”が再起を図るには、どのような改善要素が求められているのでしょうか。

ホンダらしさを象徴する「スポーティなフィット」を求める声は大きい

 2002年、国内年間販売台数で33年間にわたり首位の座にいたトヨタ「カローラ」を引きずり下ろしたほか、年間で20万台を超える売れ行きを何度も達成するなど、ホンダ「フィット」は、人気のコンパクトカーとして知られています。
 
 しかし近年は、こうしたダントツ人気の座も軽スーパーハイトワゴン「N-BOX」に譲っているようです。再び往年の勢いを取り戻すには、どのような次期モデルとなるのが望ましいのでしょうか。

 フィットが現行型(4代目)になったのが2020年2月のこと。以降、暦年(1月〜12月)で2021年には5万8780台で12位、2022年には6万0271台とかろうじて6万台を超えシングルの9位。ところが2023年には5万7033台で15位と奮いません(自販連調べ、軽を除く)。

 コロナ禍や半導体不足の問題で落ち込んだのかと思いきや、ライバルの多くはちゃんと売れています。しかも、同じホンダの中で、2016年にデビューしモデル末期といえる「フリード」にすら水をあけられている状況です。

 そんなフィットですが、2022年10月のマイナーチェンジで見た目も走りもけっこう変わりました。

 このとき、各タイプそれぞれのデザインの個性をより際立たせるよう変更されたほか、新たにスポーティな「RS」がラインアップされています。

 また、それまで燃費のよさと扱いやすさでは高く評価されていた半面、性能面ではやや線の細い印象のあったハイブリッドシステム「e:HEV(イーエイチイーブイ)」についても、モーターの最高出力とアクセルレスポンスが高められ、ドライバビリティが向上しました。

 それでも販売的にはあまり好転したようには見受けられません。一体何がよろしくないのでしょうか。

 筆者(モータージャーナリスト 岡本 幸一郎)の見立てでは、フィットは走りも使い勝手もこのクラスではトップレベルの完成度を誇り、個人的にはデザインも気に入っているので、不思議でなりません。

 そこで起死回生を図るべく、次期型フィットとして何かテコ入れを図るとしたら何をやるとよいのか、勝手に考えてみました。

 ひとつはデザインです。

 従来型の3代目がややアクの強いデザインのため、一部で不評だったこともあり、現行型は落ち着いた印象の意匠とされたわけですが、やや控えめすぎる感もなくありません。

 ところが中国向けのフィットには、日本仕様とは異なる大きくて力強いデザインのフロントグリルやバンパーが装着されたRSが、当初より設定されていました。

 通常モデルに対しずっとスポーティで若々しい雰囲気のため、「カッコイイ」と思う人は少なくなかったようで、2022年10月マイナーチェンジの際、同じ意匠のRSが国内にも導入されています。

 いっぽう中国では、さらに派手なエアロパーツを備えた「無限」エディションも設定しており、こちらも気になるところです。

 こうしたスポーティ化のハナシでいえばほかにも、海外向けに設定のある1リッターターボエンジンを日本にも導入するというのはいかがでしょう。

 おまけにMTが選べるようにすればなお良し。「ターボ+MT」といえば飛びつく人は少なくないはずです。

 それをもっとつきつめて、いっそホンダスポーツモデルの最高峰「タイプR」にしても良いと思います。

 いまの歴代タイプR(シビック/インテグラ)における中古車の高騰をみると、やっぱりホンダファンならずとも、走りに特化したクルマが少なからず望まれていることは間違いありません。

 ライバルでもスズキのコンパクトカー「スイフト」における「スイフトスポーツ」のような大成功例もあることですし、対抗馬としていっしょに盛り上がってくれればいいんじゃないでしょうか。

高い実力を持つ「フィット」が本来位置すべきポジションに返り咲く日も近い!?

 ふたつめの改善点としては、現行型でモデルライフの途中に変更するのは難しいことを承知の上で述べると、先進運転支援機能「Honda SENSING(ホンダセンシング)」を、ミリ波レーダー付きにしたほうが良いと思います。

 カメラをフルに駆使してカメラだけでもここまでやったのは立派だと思うし、センサーをできるだけ増やさないほうが、むしろ補修の際などにお金がかからないというメリットもあるので、合理的であるのはわかります。

 さらに2022年10月のマイナーチェンジで、機能的にもより向上して相当ハイレベルなことをやっているのもわかります。

 我々もホンダセンシングがいかによくできているかは、機会があるたびに述べています。

 それでもユーザーにとっては、ミリ波レーダーが付いているかどうかのほうが大事で、購入を検討する際の大きな判断材料になっているようです。

 であれば、それに応えたほうが賢明でしょう。なにはともあれ買ってもらわないことには話が始まりませんからね。

 3つめは「イメージアップ」です。

 フィットの販売低迷の要因として、今でもたびたび蒸し返したように報じられる先代フィットのハイブリッドシステム「SPORT HYBRID i-DCD」のトラブルの問題が挙げられます。

 たびかさなるリコールの悪しきイメージが根強く残っていて、その象徴だったフィットのことを「ヤバイ」と思っている人が少なくないようです。

 現在のフィットに搭載されているe:HEVは、7速DCT(デュアルクラッチ式トランスミッション)を用いたi-DCD(Intelligent Dual Clutch Drive:インテリジェント・デュアル・クラッチ・ドライブ)とはまったく別物であることを、ホンダはもっともっとアピールする必要があると思います。

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 現行型フィットは、ホンダの「良心」を凝縮したようなコンパクトカーだと思っています。

 内外装の質感も、車内の広さや実用性も走りの洗練度も、同じクラスで競合するライバルをしのいでいて、本当に良くできたクルマなのです。

 もう少し正当に評価されて、本来いるべき位置にもどれるよう願っているところです。