ハッシュタグに寄せられた名作の数々

 SNSでは絶えずトレンドの話題が生成されますが、中でも「おすすめを紹介してください」という意図で作られたハッシュタグは、同じ興味を持つユーザーたちの目にとまりやすくさまざまな投稿が寄せられるため、有意義な情報が集積されるうえ後から一覧しやすい“ブックマーク”としての機能も果たします。

 2024年4月中旬にX(旧ツイッター)で多数の投稿を集めたのは「#あなたが一番怖ろしかった本」というハッシュタグでした。

何を「恐ろしい」と感じるかは人それぞれ

 何を恐ろしいと感じるかは人によってそれぞれ違うだろう、という提起から、あるユーザーが「あなたが一番怖ろしかった本」というハッシュタグを立ち上げ、作品を募集。読書好きたちの間でリポストされて、1000件前後のブックレビューが寄せられました。

(1)外せない、王道のホラー作品

 筆頭として挙げられたのはやはりホラー作品です。

 転居先の部屋で起こる怪奇現象とそこに潜む因縁を描く「残穢(ざんえ)」(小野不由美、新潮文庫)、呪いのビデオテープと奇怪な女「貞子」の恐怖を描きJホラーの金字塔とも評される「リング」(鈴木光司、角川ホラー文庫)など。

(2)人間が怖い“ヒトコワ”作品も人気

 怪奇現象などは起こらないものの、同じく恐怖ものとして人気が高いジャンルであるサスペンスでは、死亡保険金をめぐる殺人疑惑から人間心理の恐ろしさで読者を圧倒した「「黒い家」(貴志祐介、角川ホラー文庫)や、インターネット上のナンパで女性と知り合うものの、彼女の言動が徐々に常軌を逸していく「リカ」(五十嵐貴久、幻冬舎文庫)など、こちらも枚挙にいとまがありません。

恐ろしい本で描かれる世界のイメージ

子どもの頃の記憶、実在の人間の恐ろしさ

(3)子どもの頃の恐怖体験

 幼い頃の読書体験が忘れられず、今も鮮明に記憶に残っているという人も多くいました。

 なかなか寝ない子をおばけが連れていってしまう切り絵のような画風が独特の「ねないこだれだ」(せなけいこ、福音館書店)や、時間泥棒と風変わりな女の子の物語「モモ」(ミヒャエル・エンデ、岩波書店)など、子どもの頃一度は触れたことのある作品名が並びました。

(4)悲惨な歴史を忘れないために

 一方、歴史的な事件・事象に基づく作品やノンフィクションなどを推す声も多く上がりました。

 1915(大正4)年12月に北海道の開拓村で起こった日本獣害史上最大の惨事を記録した「熊嵐※」(吉村昭、新潮文庫)、また第2次世界大戦中の旧日本陸軍が行ったとされる人体実験を告発した「悪魔の飽食」(森村誠一、角川文庫)、大戦末期から戦後の広島を生き抜いた少年たち群像「はだしのゲン」(中沢啓治、汐文社)など、幅広い年代の作品が並びました。

(5)現実の人間が一番恐ろしい?

 また、ずさんな捜査とDNA鑑定の闇、司法による隠蔽(いんぺい)を取材した「殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件」(清水潔、新潮文庫)や、通電・食事・睡眠・排泄制限などの虐待の末7人もの人間が殺された「消された一家 北九州・連続監禁殺人事件」(豊田正義、新潮文庫)など、近年実際に発生した凶悪事件を追ったルポも。

 昭和から平成にかけてという時代背景も相まって、当時を知る読者には、その内容がよりリアルな空気感をもって迫ってくるものと思われます。

※ ※ ※

 ホラー、サスペンス、ノンフィクション、児童文学など、幅広いジャンルが寄せられ、発端となった投稿は1000件近いブックマークが付けられています。

 あなたが「一番恐ろしかった本」はどのようなジャンルでしょうか? タイトルやあらすじを(ネタバレなしで)皆と共有してみませんか?

※「熊嵐」の熊は、皿冠に熊。

(LASISA編集部)