自動車教習所の存在意義

 自動車教習所は障がい者や脳卒中後遺症患者の“運転再開”にも関わっている。

 例えば、足の切断やまひなどだ。特に右足に障がいの影響が残っている場合は、ペダル操作の訓練や改造車の適応を検討している。

 実際、義足でアクセルペダルやブレーキペダルを操作し、片手で運転できるように訓練した例もある。

 ただ、障がい者や脳卒中後遺症患者の数は多くない。彼らの需要に応えるためには、同時に教習所の利益についても慎重に検討する必要がある。教習所の繁忙期と閑散期を考慮した連携のあり方を模索しなければならないのだ。

 安全な移動のために、教習所はどのような存在意義を果たしているのだろうか。今回考える。

警察庁・都道府県警察が取り組むべき具体的事項について(案)(画像:警察庁)

自転車シミュレーターの活用

 自転車は道路交通法上「軽車両」に分類され、車の“仲間”である。警察庁の調査によると、自転車事故の特徴として、対自動車が75.5%と最も多く、出合い頭の衝突事故が54.9%を占め、安全不確認や一時停止違反等の違反も要因とされている。

 警察庁では、これらの課題を解決するために自転車交通安全教育の重要性を認識し、「自転車の交通安全教育の充実化に向けた官民連携協議会(仮称)」を立ち上げる予定である。

 教習所は、自転車の交通安全教育の中心的役割を担うことが期待されている。以下は具体的取り組み事例の引用だ。

「【自動車教習所独自で自転車交通安全教育を実施】指定自動車教習所の一部において、指導員を小学校等に派遣し、座学や実技等、自転車の安全利用を目的とした自転車安全運転講習を教習所独自で実施している。教習所との連携(講師、コースの活用)による交通安全教室の実施」

これまで教習所が行ってきた自転車の安全運転に関する教育は、主に子どもたちが対象だったが、今後は一般ユーザーにも広がっていくことが予想される。

 なかでも注目されるのが、自転車シミュレーターを使った交通安全教育だ。自転車シミュレーターはホンダが開発したもので、一部の教習所に設置されている。「実際に自転車を運転して交通安全を教えた方が早い」という意見もあるだろう。ただ、自転車シミュレーターは

「事故を疑似体験できる」

というメリットがある。特に自転車の場合、左側からすり抜けたときの巻き込み事故の危険性が高く、交通安全教育には必要だ。

 デメリットとしては、映像系のシミュレーターは“3D酔い”を起こす可能性があり、被験者は船酔いに似た症状に注意する必要がある。

左アクセルペダル(画像:フジオート)

改造車を活用した運転技能講習

 教習所は、左足のアクセルペダルのために改造された自動車があり、障がい者のための運転技能講習も行っている。以下はその活動の一部である。

 障がい者のための運転技能講習では、特殊な車両を使用することもある。

 例えば、右足を切断した場合、左足だけで運転できるようにアクセルペダルとブレーキペダルを改造することがある。画像では、アクセルペダルは左側に、ブレーキは真ん中にある。アクセルペダルを踏み込むと、既存のアクセルペダルと連動する。

 改造車の運転評価には教習所での運転が必要で、各リハビリテーション病院は改造車を所有する事業所と連携している。実際、足の切断後はすべての操作に左足を使うため、練習が必要となる。教習所では、安全な環境で練習できるので心強い。

 しかし、改造車を所有していない教習所もある。その場合は、前述の左足用アクセルを貸し出すことも可能で、必要に応じて相談している。また、各市町村単位で補助金が導入されており、補助金額については問い合わせが必要だ。

 左足アクセルペダルのほか、両手だけで運転できる装置もあり、教習所はその訓練に大きな役割を果たしている。一方、民間企業である教習所に、少数の障がい者に運転支援や自転車の安全運転教育を求めるには、前述のとおり、その利益も考慮する必要がある。

車いす(画像:写真AC)

モビリティ多様化に対応する教習所

 教習所は、一般的に大学生の夏休みや春休み、就職前の時期が繁忙期で、障がい者の運転支援を行うことが難しい場合がある。実際、

「実車評価には対応できない」

という指導員もいるため、配慮も必要だ。

 自転車だけでなく、現在、電動キックボード(特定小型原動機付自転車)や電動バイクなど、さまざまなモビリティが登場している。両者が教習所で教習できる意義は大きく、現在、一部の教習所で実施されている。

 また、最近では特定技能職種に「自動車運送業」が追加され、バスやタクシーなど旅客運送業の運転免許ニーズが高まることが予想される。

 今後もさまざまな移動手段の安全な移動を啓発・支援する役割を担うことが期待される。