企業買収・成長製品に注力

医薬品の世界市場の成長に伴い、製薬企業は業績を堅調に伸ばす。国内の製薬企業も主力製品の販売を順調に拡大しており、2024年度も成長を見通す傾向にある。一方で、持続的な成長に求められるのが特許切れへの対応だ。大型薬に成長した主力品の特許切れは業績への影響も大きい。新製品の開発や外部からの獲得、社内の構造改革による利益改善といった戦略が重要となる。(安川結野)

※自社作成

アステラス製薬は24年度の売上高を前期比2・9%増の1兆6500億円と見込む。成長の要因は、抗がん剤「イクスタンジ」や「パドセブ」といった主力製品だ。イクスタンジの売上高は23年度と同水準の7570億円となる見通しで、同社の売上高の約45%を占める。

こうした大型薬と切り離せないのが特許切れの課題だ。グローバルで好調を維持するイクスタンジだが、米国で27年に特許期間満了を迎える。同社はこれまでに、米アイベリック・バイオを約8000億円で買収し眼科領域の新薬「アイザーヴェイ」を獲得したほか、更年期障害薬「ベオーザ」といった成長製品に注力するなど対応を進める。主力製品と成長製品で、25年度に5000億円を売り上げる計画だ。

一方で、重点的に取り組む研究領域「プライマリー・フォーカス・エリア」の収益化やコア営業利益率30%以上といった成果目標について岡村直樹社長は「25年度の達成は難しい」との見方を示す。

大和証券の橋口和明シニアアナリストは「長期的な利益回復には、現時点では初期的な段階にとどまっている品目の開発が順調に進んで新たな収益機会を生み出すか、足元で販売中の品目の売り上げが大きく上振れて第三者から開発・販売品を新たに獲得する資金を捻出できることが必要」と分析する。後期開発品も少ない中では、まずは成長製品の市場浸透と拡大に向けた効果的な戦略が求められる。

武田薬品工業も同様に、潰瘍性大腸炎・クローン病治療剤「エンタイビオ」の特許切れの課題を抱える。エンタイビオは23年度に8000億円以上を売り上げた大型薬だ。特許切れの影響の最小化と長期的な事業成長を目的に、1400億円を投じ、構造改編やデジタル活用を進める。またパイプラインの優先順位の再編にも着手する。新製品や成長製品の収益性を高め、30年度ごろまでにコア営業利益率を30%台に引き上げることを目指す。

医薬品は製品のライフサイクルが短く、また海外のメガファーマ(巨大製薬会社)が大型買収を行うなど開発競争が激しい。連続した新薬開発と戦略的な市場浸透に加えて事業の効率を高めることが成長に求められる。