グローバルな社会における日本の位置づけについては様々な指標があるが、危機的ともとれるランキングもある。コラムニストの石原壮一郎氏が考察した。

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 前年の125位から、順位を7つも上げて118位に!

 いや、喜ばしくも何ともありません。世界経済フォーラム(WEF)は6月12日、2024年版の「ジェンダーギャップ報告書」を発表しました。「経済」「教育」「医療へのアクセス」「政治」の4つの分野について、毎年、各国の男女格差を調べているものです。

 調査対象146カ国のうち、日本は堂々の118位。主要7カ国(G7)では文句なしの最下位です。「教育」と「医療へのアクセス」の分野では、男女間の平等をほぼ達成されているとされました。しかし「経済」と「政治」の分野が大きく足を引っ張っています。

 先ごろ、GDP(国内総生産)の世界ランキングで、日本がドイツに抜かれて世界3位から4位に転落したことが話題になりました(1位はアメリカ合衆国、2位は中国)。ちなみに、GDPの世界ランキング118位はマリ、119位はブルキナファソ、120位はボツアナ。金額は日本の200分の1ぐらいです。ま、だから何だと言われそうですけど。

 ジェンダーギャップのランキングは2006年から発表されていますが、日本は一貫してパッとしない順位です。今年は少しアップしましたが、長期的には「低下傾向」にあると言っていいでしょう。

 このところの日本社会は、男性の育児休暇が一気に広まるなど、ジェンダー平等に向けて少しずつ動いてはいます。なのになぜ、順位が変わり映えしないのか。その原因を探るために、ニュースサイトのコメント欄をのぞいてみましょう。そこにある匿名での無責任な書き込みには、日本社会の“本音”が反映されているはずです。

たくさんの共感を集めたコメントの特徴とは

 とあるニュースサイトで、6月12日の朝に公開された朝日新聞デジタルの「ジェンダー平等118位、G7最低 男女格差の解消、停滞続く日本」という記事には、3000件を超える大量のコメントが付いています。この問題に強い関心を持っている人が多いからなのか、「118位」という順位が悔しかった人が多いからなのか、それはわかりません。

 コメントの中で、もっともたくさんの共感を集めたのは「平等と公平は違う。幹部の男女比率を同じにするのではなく、幹部にステップアップする機会を男女ともに同じにするのが望ましい。まわりの女性陣も、出産を機に専業主婦になりたい、仕事はしたいけど出世せずに平和に働きたいという人も多い」(要約)という意見でした。現時点で男性が下駄を履かせてもらっているのは明らかですが、それは「公平」と言えるのでしょうか。

「欧米基準の男女平等は性別そのものをなくすこと。女性兵士も銃を持たせて前線に送り、多くが死亡している。日本には日本の考えがあるので、欧米基準のランキングなど気にする必要はない」(要約)という意見も、同じぐらいたくさんの共感を集めています。仮に欧米基準が反映されているとしても、またずいぶんと乱暴な決めつけと言えるでしょう。気にする必要はないと言いつつ、気になってしょうがないみたいですね。

 たくさんの人が「そうだ、そうだ!」と支持しているコメントには、ざっくり言うと次の3つの主張が込められています。

●その1「バリバリ働きたい女性ばかりではない。専業主婦になりたい女性もいる」

 男性だって、どんな働き方を望むかは人それぞれ。このランキングがあぶり出しているのは、「バリバリ働きたい女性」が多くの不利益を被っている現状です。専業主婦になりたい女性がいることは、不平等な状態を続けていい理由にはなりません。そして、女性にとって窮屈な社会は、男性にとっても窮屈な社会です。

●その2「男女によって違いがあるのだから平等や公平を目指すのは無理がある」

 男女に違いがあるのは当たり前です。それは埋められなくても、性別によって選択肢が狭まったり、正当な評価が受けられなかったりする状態の解消は、十分に目指せるはず。コメントをする人にせよ共感する人にせよ、もし男性が大半だとしたら、きっとせっかく履かせてもらっている下駄を取り上げられるのが怖いんですね。

●その3「日本は日本だ。欧米基準のランキングなんて気にする必要はない」

 もちろん、日本には日本の文化があります。それにしたって118位というのは、欧米との文化や価値観の違いで説明が付く順位ではありません。そもそも日本は長年にわたって、政治でも経済でも日常生活でも、欧米を手本にし続けてきました。「ジェンダーの問題は話が別」というのは、ご都合主義にもほどがあると言えるでしょう。

大きな顔をしている自分が恥ずかしくなるから?

 逆に、疑問を示す反応が多かったのは、たとえば「女性だと、仕事に加えて家事や育児、介護をこなして当たり前だと思われがち。家事や育児は好きじゃないとは言えない無言の圧力も強い。しかも、女性が仕事をすることに対して冷たい目を向ける人が多い中で働いている。お疲れ様です。118位にしかなれないのは当然です」(要約)といったコメント。ひじょうに納得できる内容で、どこに疑問を示したいのかよくわかりません。

 全体を通して伝わってくるのは、男性の側の「自分の考えや現状を正当化したい」という強い気持ちと、118位というインパクトの強い順位に対する必死の「負け惜しみ」です。それこそ、いろいろある調査のひとつですから、もっと大らかに受け止めてもいいはず。しかし、そうではない人が多いところに、社会としての余裕のなさも感じます。

 このランキングの結果を謙虚に受け止めて素直に反省してしまったら、男性がひいきされている社会で大きな顔をしている自分が恥ずかしくなるからでしょうか。誰しも自分のズルさを直視するのは容易ではありません。プライドの拠りどころが音を立てて崩れ落ちる恐怖心にも包まれそうです。

 もしかしたら、日本がこのランキングで長年にわたって低空飛行を続けている最大の理由は、おじさんたちが中途半端な既得権益やプライドを守るために、あらゆる場面で難癖を付けているからかも。会社の会議から、家庭での妻や娘への接し方まで、ジェンダーギャップの解消を妨害するチャンスはたくさんあります。ひとりひとりには悪気はなく、むしろ「よかれ」と思ってやっているところが、また厄介です。

 おじさんにとって、ジェンダーの問題をどう考えてどう語るかは、けっして簡単ではありません。ちょっと油断していると、自分を正当化して負け惜しみを言いたいという甘い誘惑の魔の手が伸びてきます。

 もちろん、どんな考えを持とうが自由ですが、わかりやすい形で甘い誘惑に負けて、絵に描いたような「おじさんっぽい言動」に精を出すのは、できれば避けたいところ。今回の118位という結果に対しても、指摘されていることに耳を傾け、とりあえず自分に何ができるかを考えましょう。「男としてのプライド」というのは、現実を認めたくないが故の悪あがきではなく、そういう形で発揮したほうがカッコいいのではないでしょうか。