各地の動物園で展示方法や設備を見直し始めています。 飼育動物のストレスをやわらげるため、世界では標準になりつつあるのが、快適な環境で飼育する「アニマルウェルフェア」です。 取り組みが遅れている日本でも新たな動きが出ているそうです。 5月21日放送の『CBCラジオ #プラス!』では、「アニマルウェルフェア」をテーマに、CBC論説室の北辻利寿特別解説委員がレクチャーします。

     

動物の福祉

北辻委員によれば「アニマルウェルフェア」とは、アニマル=動物、ウェル=よい、フェア=状態で、動物がよい状態を意味するとのこと。

北辻「本来の動物の習性にあった快適な環境で飼育しようという取り組みです。日本語で言うと『動物福祉』と訳されています」

アニマルウェルフェアは1960年代にイギリスで生まれた考え方です、
当時のイギリスでは畜産などにおける動物への虐待が社会問題になりました。

この考え方が世界に広がったのは、2015年に世界動物園水族館協会(WAZA=World Association of Zoos and Aquariums)が、動物福祉の実現を求める指針を発表したことです。

北辻「さらに去年夏、WAZAが世界の動物園、水族館への飼育環境の改善をしましょうと呼びかけたので、日本でも一気に動き出しています」

5つのポイント

日本での取り組みを説明する北辻委員。

北辻「日本動物園水族館協会という協会があり、140の加盟があります。国際的な指針を受けて5つのポイントを挙げています。身体的に4つ、精神的に1つです」

身体的なポイントは下記の4つです。
1. 動物の栄養…十分か、食べ過ぎていないか
2. 環境面…宿舎の明るさ、温度のチェック
3. 健康…痩せすぎていないか、太りすぎていないか
4. 行動面…休息や睡眠はじゅうぶんとれているか、ほかの動物と交流はできているか

そして精神的なポイントは、飢えや乾きなど欲求不満になっていないかなど。

このポイントに基づいて、協会の依頼を受けた獣医師たちが各動物園水族館をまわってチェックしているそうです。

さまざまな取り組み

北辻委員がその一例として挙げたのは、東京都の上野動物園が、名物だったサル山を取り壊すことになったことです。

北辻「ニホンザルは暑さに弱いため、サル山でなく、涼しい日陰ができる森にしようという取り組みが進んでいます」

また人気の旭山動物園(北海道旭川市)では、ヒグマのスペースを3倍の広さにして窮屈さを感じさせないようにしました。
そして、しながわ水族館(東京都品川区)では、2027年の新装オープンを機に、人気のイルカショーを廃止する方針を発表しています。

北辻「世界各国でもイルカの展示をやめようという潮流があって、それに合わせようとしています」

東山動植物園は

放送エリアの名古屋市にある東山動植物園の取り組みにも触れる北辻委員。

北辻「今年で88周年です。動物園内の環境を整えてきていて、例えば木の上で活動するチンパンジーのために、2008年チンパンジー舎にタワーを作った。

ジャガーは実は水中で狩りをします。だからジャガーのために深い屋内プールを作った。
人気のホッキョククマにはドラム缶など水の中のおもちゃを与えて、水の中で遊んでいてかわいいです。

東山動植物園ではアジアゾウ、トラ、オラウータンとか、自然界に近い環境でという整備が進んでいます。
エサを与える時も、いろいろな場所に置いたり、すぐに食べてしまわないようにネットの中にエサを入れたり、いろんな工夫を東山動植物園もしています」

動物の希少化とお金

今後の課題は何でしょうか?

北辻「ふたつあります。ひとつは動物園や水族館は展示する生き物の数が少なくなってきています。
例えば京都の動物園では人気のライオンで最後の1頭が4年前に死んでしまって、ライオンの展示をやめる。

そういう動物たちが希少価値になってきて、輸入する時も、アニマルウェルフェアに取り組んでいるかチェックが厳しくなっている。動物の数が少なくなっています。

もうひとつはお金です。日本は公立のところが多いです。予算が厳しいので、アニマルウェルフェアに取り組みたくても資金がない。来県者や企業から寄付金を募るサポーター制度をとっているところが多いです。

動物園、水族館は憩いの場であり、学びの場です。ではどうやって維持していくかです。アニマルウェルフェアはずっと続けていかなくてはいけないゴールのない課題です。
わたしたちと動物との関係、いろんな課題を投げかけています」
(みず)