今回は埼玉県与野の『増田ヤ』が提案する「30分春夏さわやか時短おでん」を紹介しよう。 おでんは寒い時期の料理という印象が強いが、春夏でもおいしく食べられる。季節の野菜を加えれば彩りもよく栄養価もたっぷりで、煮込む必要もないのであっという間にできあがる。今回は与野の『増田ヤ』が提案するおでんを詳しく紹介していこう。

創意工夫を凝らしたおでん種をつくり続ける『増田ヤ』

『増田ヤ』はJR京浜東北線の与野駅からすぐ近くで営業するおでん種専門店だ。創業当初は乾物を取り扱っていたが、親類の浦和の『増田屋』からおでん種を仕入れ、現在では自身で製造販売している。

初代と2代目店主が手づくりする揚げ蒲鉾は創意工夫にあふれていて、おでんでは珍しい具材を用いた変わり種をたくさん生み出している。

店内は定番物を含め、多いときには30種類以上の揚げ蒲鉾が並ぶ。すり身の原料には良質な魚を使用しており、高級魚のグチをはじめ、ハモ、イトヨリダイ、キントキダイやタチウオなど、季節によって配合を変えている。常によりよい味を求めて新しい原料魚を試しており、温度や湿度によって使い分けている。

最近は新たにレンコダイ(キダイ)を用いてみたところ、味や食感に手応えを感じているという。同じ商品でも時々で魅力が変化するので、定期的に味わってみても面白いだろう。

季節による限定商品も充実している。訪れたときはこごみやよもぎを用いた山菜の揚げ蒲鉾が販売されていた。

「里山の恵」シリーズと銘打って5回にわたり新潟と北関東の山菜を用いた揚げ蒲鉾を提供しており、第1回からふきのとう、山椒、よもぎ、こごみが発売され、これから第5弾が登場する。

記事の後半で詳しく紹介するが、どれも山菜の魅力にあふれていて、すり身の旨さが際立つ一品ばかり。全種類を味わって自然豊かな日本の魅力を体感してほしい。

『増田ヤ』は味もさることながら、揚げ蒲鉾の造形も素晴らしい。どこか日本の民藝や和菓子に通じる素朴で繊細な魅力をまとっている。現代に柳宗悦やバーナードリーチが存在していたら、高い評価を得ていたのではないかと想像してしまう。

手軽で栄養も豊富! 30分春夏さわやか時短おでん

さて、そろそろ今回のテーマである「30分春夏さわやか時短おでん」について紹介していこう。

このおでんは煮えにくい大根やジャガイモの代わりに春夏野菜のズッキーニやミニトマトを入れることで、30分ほどであっという間に完成することができる。『増田ヤ』のお客さんがバーベキューをしている際に考案したものだという。

野菜を入れると見た目も華やかになり、おでんでは不足しがちな栄養素を補うこともできる。揚げ蒲鉾には9種類のアミノ酸をバランスよく含んだ良質なタンパク質が含まれており、野菜も加わることで夏バテにも非常に効果がある。冷やしてもおいしく、煮る時間を大幅に短縮できるので夏場にもってこいだ。

作り方は説明の必要がないほど簡単だ。具材はお好みの春夏野菜と揚げ蒲鉾となる。こんにゃくや白滝など好みの具材を入れてもいいだろう。

野菜選びのポイントは早く火が通るものを選ぶことだ。『増田ヤ』のおすすめは、ズッキーニ、ミニトマト、エリンギ、万願寺とうがらしだ。

揚げ蒲鉾もお好みだが、『増田ヤ』ではコクのある唐辛子みそ、彩りが美しい山菜類、かわいらしいフォルムのうさトマトビーフなど、個性豊かな種を入れると味も見映えもよくなる。

さっと煮るとさっぱりベースの味わいになるので、コクを出したいのであれば牛すじや鳥つくねなどの肉類を入れるといい。ただし、冷やしの場合は脂が固まるので注意が必要だ。

調理は野菜を切って揚げ蒲鉾と一緒に煮るだけだ。ズッキーニは好みでピーラーで縞模様にしてから1cm程度の輪切りにする。ミニトマトは手でヘタを取り、エリンギは食感が楽しめるようにぶつ切りにする。万願寺とうがらしはヘタを短く切る。種は食べられるので取らなくてもいいが、気になる方は処理しておこう。

おでん汁を用意したら野菜を入れて、5分ほどしたら揚げ蒲鉾を入れて10〜15分程度煮る。煮加減を見て好みの柔らかさになったら火を止めよう。ミニトマトはすぐに火が通るので最後に温めるくらいでいい。

冷やしおでんの場合はタッパーに小分けにして粗熱をとったあとに冷蔵庫で冷やす。『増田ヤ』のおかみさん曰く、氷水を張ったボウルに鍋ごと入れればすぐに冷めていいとアドバイスしてくれた。

あっという間に完成するので、忙しいときでも手軽に挑戦できる。見た目も華やかで食欲もわいてくる。

野菜は短めに煮ればフレッシュに、少し時間をかければしんなりとした食感を楽しめる。ミニトマトはほどよい酸味が食欲を刺激し、ズッキーニはおでん汁が染みてまろやかな味わいとなる。万願寺とうがらしは香りがとてもよく、鰹節や生姜と一緒に食べてもおいしい。エリンギは独特の食感が面白くて癖になりそうだ。

コクを出すために投入した牛すじはふくよかな甘みがあり、それでいてしつこくない。柔らかな肉の食感も満足感が高い。

『増田ヤ』の個性ある揚げ蒲鉾も紹介していこう。2022年に登場した「うさトマトビーフ」は見た目のかわいらしさと極上のおいしさでお店の看板商品となった感がある。ワインでじっくり煮込んだトマトと牛すじ肉、エリンギをからめ、ピンクペッパーをあしらったこだわりの品だ。口に含むとトマトと牛肉の甘みで舌がとろけてしまう。

「里山の恵」シリーズからはこごみをまず紹介したい。しゃきしゃきとした食感があり、癖は少ないもののふくよかな風味が素晴らしい。おでんにしてもいいが、ぜひ何もつけずにそのまま味わってみてほしい。すり身との相性も抜群で、お互いを引き立て合っている。

山椒は山椒の葉のフォルムが美しい揚げ蒲鉾だ。非常に上品な芳香が爽やかに鼻を抜けていく。しっかりと個性を主張しながら、こちらもすり身のおいしさがより感じられるベストカップリングだ。

よもぎはよもぎ餅のように、よもぎがすり身に混ぜ込んである。やさしくも上品な香りがじんわりと広がり、心をリラックスさせてくれる。

よもぎには新潟蔵元の酒粕が入っているので、ほんのりと甘い味付けになっている。『増田ヤ』の店内では酒粕パウダーも販売されているので、あわせて購入したいところだ。

ふきのとうボールはペースト状にしたふきのとうをすり身に練り込んだこだわりの一品だ。ほろ苦い春を感じさせる風味はそのままに、まろやかな味わいとなって食べやすくなっている。

唐辛子みそはしっかりとした唐辛子の辛味と生姜の爽快な辛味が加わって、深い味わいが広がる。お酒のお供として味わってもおいしいが、今回の春夏おでんに入れるとよいアクセントになるだろう。

枝豆を混ぜたすり身にチーズがたっぷり入った枝豆チーズは、文句なしのゴールデンコンビ。爽やかな味わいの枝豆とまろやかなチーズの組み合わせに感動してしまうが、全体に調和をもたらしているすり身のソフトな仕上がりに職人の技を感じる。

生青のり揚は青海苔がたっぷり混ぜ込まれており、磯の香りが口いっぱいに広がっていく。ひと口サイズのおつまみ仕様だが、おでんにしても香りはしっかりと残っている。

しいたけ丸は大ぶりの椎茸を贅沢に丸ごと使っているため豊かな香りを存分に楽しめる。さらにすり身に練り込まれたキクラゲのプチプチとした食感がアクセントとなり、甘みのある人参はさらに旨味を増している。

コーンボールはひと口サイズながらもコーンがたくさん入っていて、噛むごとにうれしさが込み上げてくる。コーンの甘みが素晴らしく、おでん以外にもカレーライスや刻んでおにぎりに入れてもおいしいだろう。

おこのみ揚は彩り豊かな野菜が入った揚げ蒲鉾だ。ひと口サイズでおつまみにも最適で、ぎゅっと詰まった野菜の甘みが病みつきになる。

いか天はイカの形に成形された姿がかわいらしく、すり身の端までたっぷり入ったイカの旨味が素晴らしい。イカは細かく刻んであるので、噛むごとに魚のすり身と混ざり合って味わい深い。

最後はおでん種の王様、海老巻だ。個性豊かな『増田ヤ』の揚げ蒲鉾の中でも圧倒的な存在感を放っている。ぷりっとしながらふっくらとした海老の食感は満足感があり、その仕上がりに『増田ヤ』の確かな技量が感じ取れる。

栄養豊富で見た目もよく、時短で調理できる『増田ヤ』の「30分春夏さわやか時短おでん」。食材も好みに合わせて購入できるので、ぜひ挑戦していただきたい。また、『増田ヤ』の創意工夫を凝らした揚げ蒲鉾もご自身の舌で味わっていただきたい。技術の研鑽(けんさん)もさることながら、揚げ蒲鉾をより身近に楽しく味わえるようなアイデアを考え続ける2代目店主とおかみさんは、お客さんを第一に考えるあたたかい人柄だ。東京からもアクセスしやすいので、ぜひ一度お立ち寄りいただければと思う。

『増田ヤ』の基本情報

増田ヤ与野駅前店
〒338-0002 埼玉県さいたま市中央区下落合1034-2
048-831-8061
定休日:日曜、夏季祭日
営業時間:11:00〜18:30(土・日・祝は10:00〜18:00)
『増田ヤ』のTwitter, Instagram

取材・文・撮影=東京おでんだね

東京おでんだね
東京のおでん種・蒲鉾・練り物の魅力を紹介
「おでん種やさんでおでんを買って、家で調理して食べる」文化を盛り上げるべく、都内各地を奔走中。ビジネスでなく趣味でちまちま活動しています。