5月3日、横浜。ジュビロ磐田のFWジャーメイン良(29歳)は、横浜F・マリノスの強力なディフェンダーたちと対等に戦っている。裏に抜けるスピード、球際でのパワーを生かしたキープ力、跳躍力を含めたヘディング、プレッシングの迫力など、どれも彼のアドバンテージだ。

「(横浜FMのDFは)自分のところに厳しく来ていましたね」

 試合後、ジャーメインが語っていたように、明らかに警戒されていた。第12節終了現在11得点。J1リーグトップのゴール数は伊達ではない。中盤に降りてボールキープしようとすると、横浜FMのアタッカーがプレスバックに戻って来たし、横浜FMのDFが必死にクリアで逃げるシーンもあった。相手にストレスを与えていた時点で、先手を取っていたと言える。

「(横浜FMと)2年前に降格した時に対戦した時は、防戦一方でした。その時と比べたら、アウェーで勝ち点1を取ることができたのはよかったです。(自身がゴールは記録できなかったが)ボールを奪った後、自分のところで起点を作ることはできたのかなと」

 ジャーメインはそう語っていたが、昇格クラブのFWとして、一昨シーズンのJリーグ王者と引き分けたことは、悪くない結果と言える。今やチームの看板を背負う。Jリーグで誰よりも多くゴールを挙げている選手だ。

 今年6月、森保ジャパンへの招集はあるだろうか?


12試合で11ゴールを決め、現在J1リーグ得点ランキング首位のジャーメイン良(ジュビロ磐田)photo by Kishiku Torao

 今シーズン、ジャーメインは無双状態に入りつつあるが、過去、J2も含めて二桁得点は一度もなかった。2017年に特別指定選手としてベガルタ仙台でプレーして4シーズン、横浜FCで1シーズン、そして2022年から磐田に所属して3シーズン目。そもそもシーズンを通して先発に定着したのは、J2に降格した昨シーズンが初めてのことだ。

 なぜ、ジャーメインは覚醒することができたのか?

「今までは器用貧乏のような使われ方だった」と、関係者は口をそろえる。

 身体能力の高さを買われて、トップ、セカンドストライカー、シャドー、ウイングバック、サイドハーフなど複数の攻撃ポジションを担当したが、どこにも定着できなかった。

【ストライカーの嗅覚が「オン」に】

 トップが本命だったが、そこで試されても点が取れず、スーパーサブに降格。シュートの場面で力みが見られ、横浜FC時代はバーをはるかに越える「宇宙開発」も少なくなかった。結果、チームの強度が落ちてきたときの攻撃のオプション、という使われ方に落ち着いていたのだ。

 しかし、昨シーズンの磐田はFIFAから「補強禁止処分」を受けていたこともあって、否応なくトップを託された。おかげで、チームトップの9得点を記録。シーズンを通してプレーできた経験に加え、昇格につながったことが現在の自信に結びついたか。

 対人プレーでの身体の使い方、ラストパスの呼び込み方、ファーストタッチが目に見えて改善。鶏が先か卵が先か、同時に冷静さも増し、シュートで優位性を作ってネットを揺らしている。

 直近の第12節、東京ヴェルディ戦。2−2と同点に追いつくヘディングシュートは「世界」を感じられるレベルだった。自らが右サイドにパスを展開。そのままクロスのタイミングを計りながら、うまく開けたスペースに突っ込み、豪快に叩き込んでいる。ストライカーの嗅覚が「オン」になっている状態だ。

 12試合で11得点のストライカーを代表に招集することは、何も不思議ではない。

 日本代表を率いる森保一監督にとって、おそらく嫌いなタイプではないだろう。カウンターでスピードを武器にできる浅野拓磨、前田大然のバックアッパーといったところか。特にカタールW杯のような受け身の戦いを想定した場合、適した人材だろう。そして左利きのストライカーであることは貴重で、ストロングポイントだ。

 6月のミャンマー、シリア戦は、すでに最終予選進出が決まっている"消化試合"である。戦力の底上げを図る必要があるだろう。そこで、上田綺世(フェイエノールト)、古橋亨梧(セルティック)、南野拓実(モナコ)など、欧州組FWの誰かを招集しない場合、ジャーメインという選択肢はあり得る。得点王レーストップの日本人FWを代表に呼ぶことは、Jリーガーのモチベーションにもなるだろう。

「29歳という年齢がネック。次のW杯を考えると、もっと若い選手を......」

 そんな意見もあるかもしれない。

 しかし過去に、日本人FWの多くは30歳前後でキャリアハイを記録している(中山雅史、佐藤寿人、大久保嘉人、小林悠、興梠慎三、豊田陽平など)。外国人FWに比べて、遅咲きの傾向があるのだろう。若いうちに頭角を現し、一気に突き抜ける例もあるが、経験を重ねて技術、戦術などが噛み合う瞬間がある。その時点から、彼らは啓示を受けたようにゴールを決めている。

「ストライカーは生もの」

 それはひとつの真理だ。たとえば、エスパニョールで得点を量産していたスペイン人FWホセルは、33歳の誕生日2日前にスペイン代表に抜擢され、華々しくデビューを飾っている。そしてなんと3分間で2得点を記録。その勢いを駆って、レアル・マドリードに移籍した(今シーズンはカップ戦も含めてここまで14得点)。

 ストライカーが容赦なく数字で評価されるポジションであり、ゴールを叩き出すことで変身を遂げるとしたら――。問いに対する答えは、はっきりと出ている。

著者:小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki