球界のレジェンドである山本昌氏(元中日)だが、2021年のGI日本ダービー(東京・芝2400m)を制したシャフリヤールの一口馬主でもあるように、競馬通としても知られる。今回はそんな山本昌氏に、今年のダービー(5月26日)で注目する馬について話を聞いた――。


皐月賞(写真)同様、ダービーも熾烈な争いが繰り広げられることは間違いない。photo by Sankei Visual

 今年の日本ダービーは、どの馬が勝つのか――。正直、どうなるかわかりません(苦笑)。だからこそ、面白いレースになりそうだとも言えますね。

 GI皐月賞(4月14日/中山・芝2000m)を勝ったジャスティンミラノ(牡3歳)は、確かに強かった。デビュー以来負けていないうえ、まだ3戦しか走っていませんから、底も見せていない。

 また、ウオッカ以来となる牝馬のダービー制覇がかかるレガレイラ(牝3歳)も、皐月賞は力負けでしたが、能力レベルはかなり高い。スワーヴリチャード産駒なので、距離は大丈夫だと思いますし、鞍上にクリストフ・ルメール騎手が戻ってくるのも心強い材料です。オークスでも、ルメール騎手に手綱が戻ったチェルヴィニアが勝っていますしね。

 とはいえ、その他の顔ぶれも多士済々。全体のレベルは高いけれど、抜けた馬はいない、というのが率直な印象です。

 前評判ほど(各馬の)力の差はなく、荒れてもおかしくないと思っています。ですから、ジャスティンミラノやレガレイラが人気になるのであれば、馬券的には他から狙ってみたい。

 現時点で注目しているのは、コスモキュランダ(牡3歳)です。

 前走の皐月賞は2着、前々走のGII弥生賞(3月3日/中山・芝2000m)は1着と、しぶとく安定した走りを見せています。馬券圏内の可能性はもちろん、戴冠を遂げても不思議はないと思っています。

 この馬を推す理由は他にもあります。アルアイン産駒だからです。アルアインは僕が出資していた馬の一頭で、3歳クラシックにはすべて(出走して)連れていってもらいましたし、そのなかで皐月賞では勝ってくれた。

 僕にとってはとても思い入れのある馬ですから、ぜひ種牡馬としても頑張ってもらいたいし、産駒の"1期生"である今年の3歳世代のなかからダービー馬が出てくれたら、こんなにうれしいことはない。"応援馬券"の意味も含めて買ってみたいと思っています。

 雨が降るなど馬場状態次第では、シンエンペラー(牡3歳)の台頭もありそうです。

 何と言っても、全兄が凱旋門賞馬のソットサス。距離はまったく問題ありませんからね。

 ただ、キレ味勝負になるとどうなのか。日本の競馬場のなかでも、特に東京はキレ、瞬発力が必要ですから。同馬は、そこに多少なりとも不安があるのですが、馬場が渋れば、この馬の馬力や対応力が生きて、突き抜けることもあるかもしれません。

 皐月賞とは別路線組のなかで気になるのは、シックスペンス(牡3歳)。ジャスティンミラノ同様、まだ底を見せていない一頭です。

 今回は、前走のGIIスプリングS(3月17日/中山・芝1800m)を勝って以来のレース。そのため、少し間隔は空いていますが、最近はこういう使われ方をする馬も多いですし、それほど心配はないでしょう。

 同馬を管理するのは、国枝栄調教師。これまで、牝馬三冠レースでは数多くのタイトルを手にしていますが、牡馬クラシックは未勝利。引退を再来年に控え、やはりダービー制覇への想いは強いはず。シックスペンスを送り出す今年は、大きなチャンスです。

 GII青葉賞(4月27日/東京・芝2400m)を勝ったシュガークンは、数少ない2400m戦の経験馬。ドゥラメンテ産駒にはキレのある馬が多く、この馬もダービー向きだと思います。

 青葉賞組は過去にダービーを勝ったことがないのは気になりますが、そういった法則もいつかは崩れるものです。3年前にダービーを制したシャフリヤールも、「毎日杯から来て勝った馬はいない」というジンクスを覆していますからね。青葉賞組のジンクスも、今回で打ち破られても不思議ではありません。

 ここに挙げた以外にも、可能性を秘めた馬は何頭かいます。馬券については、それらすべての馬の特徴をきちんと吟味して、レース直前までしっかり検討したいと思っていますが......、もしコスモキュランダが6、7番人気にとどまるようなら、3連系の馬券の軸にしてもいいのかな、と。

 もちろん、ジャスティンミラノも押さえますよ。無視するはずがありません(笑)。正直、皐月賞のときも、GIII共同通信杯(2月11日/東京・芝1800m)から間隔が空いているのがどうかと思っていたのですが、強かったですからね。

 何はともあれ、3歳春に行なわれるダービーでは、ほとんどの馬が2400m戦を経験していません。距離適性よりも、もっと根本的な能力がモノを言うレースです。

 その判断材料のひとつとなる血統もじっくりと精査しつつ、何か理由を見つけて"これ!"という馬を探してみたいと思っています。

山本昌(やまもと・まさ)/1965年生まれ。神奈川県出身。日大藤沢高から1983年ドラフト5位で中日に入団。5年目のシーズン終盤に5勝を挙げブレイク。90年には自身初の2ケタ勝利となる10勝をマーク。その後も中日のエースとして活躍し、最多勝3回(93年、94年、97年)、沢村賞1回(94年)など数々のタイトルを獲得。2006年には41歳1カ月でのノーヒット・ノーランを達成し、14年には49歳0カ月の勝利など、次々と最年長記録を打ち立てた。50歳の15年に現役を引退。現在は野球解説者として活躍中。

著者:浅田真樹●取材・構成 text by Asada Masaki