この運次第でどちらに転ぶかわからない《将来不安》という名の恐怖は、貧しい人たちだけでなく、全ての人たちにひらかれているのではないでしょうか。

それだけじゃありません。悲しいことに、いずれの例でも、人間が生きのびることによって、まわりにいる家族が不幸になったり、負担を強いられたりする可能性があります。

これって当たり前なんでしょうか。

いま、大勢の大人たちが日々の暮らしに、老後の暮らしに、言い知れぬ不安を抱え、おびえています。

それなのに、私たちは、不安定な世の中に人生をかけろ、未来の幸せのためにいまをガマンしろ、と子どもたちに言わなければならないのです。

仮に正社員になれても、成長は行きづまり、奪い合いが待ち受けているとわかっているのに、貧しくなるよりましだからがんばれと背中を押さなければいけないのです。

運がよければそれでいいでしょう。幸せに生きていけます。でも、運が悪ければ、どんなにキャリアを積んでも、ちょっとしたきっかけで奈落の底に突き落とされます。

貧しい人に無関心で冷淡な社会は、いつ、自分や子どもたちに牙をむくかわからないのです。

今日よりもすばらしい明日を見通せない社会、生きづらい社会をこのまま残して死んでいいのでしょうか。

理不尽に怒りを!

僕はとても貧しい家庭で育ちました。母子家庭の生まれで、母のスナックのカウンターで毎日勉強して大きくなりました。

母、そして一生独身を貫いた叔母、二人が借金まみれになって僕を大学、大学院に行かせてくれて、今があります。

僕は大学の教員になれました。おかげで、この本を通じてみなさんと対話できる幸せ、何物にもかえられない喜びを感じることができています。