ところが、損保ジャパンでは昨夏から、関西地域の一部代理店に対して、負担金なしで社員を事実上出向させ、代理店の募集業務などを代行させていた。損保ジャパンは社員代行について、災害対応といった緊急時などに限ると内規で制限していた。にもかかわらず。損保ジャパンの関西地域の支社長や支店長は、代理店の求めに応じるかたちで社員代行を黙認していたという。

損保ジャパンのある社員は「その代理店主は代理店の会員組織の役員を務めており、声が通りやすい。うち(損保ジャパン)の支社長や支店長だけでなく、役員も社員代行の実情を知っていたはずだ」と話す。

損保ジャパンに事実関係を尋ねたところ、担当役員が社員代行を認識していたことは否定したものの、支社長や支店長が「認識していたことを確認した」と回答。また「代理店に対する過度な便宜供与に該当する可能性も含めて調査している」といい、「同様の事案が発生しないよう、社内への注意喚起、徹底を図る」としている。

社員代行をめぐっては、金融庁が3月に設置した損害保険の有識者会議で、取り締まり強化に向けた議論を始めている。今後、金融庁が詳しい実態を調べる中で、損保ジャパンのような事例がほかの損保でも露見する可能性がありそうだ。

自動車ディーラーにおもねる損保

金融庁の有識者会議では、自動車販売店などいわゆる兼業代理店への規制強化策についても議論が進んでいる。中でも耳目を集めているのが、代理店の保険募集における「比較推奨販売」のあり方だ。

比較推奨販売とは、代理店が複数の保険会社の商品を顧客に提示・推奨して販売する際のルールの一つだ。ポイントは大きく2つある。1つは、商品ごとの特性や保険料水準などの客観的な基準や理由について説明して顧客に比較検討させること。2つ目は、特定の商品だけを顧客に提示・推奨する場合は、代理店とその保険会社との資本関係や取引関係などの理由を顧客に説明しなければならない、という規制がある。2016年に施行された改正保険業法によって強化された募集規制の1つだ。

法改正以降、保険募集だけを生業とする専業の乗り合い代理店では、比較推奨販売の規制を満たすための体制整備が徐々に進んだ。その一方で、自動車販売店などの兼業代理店では、金融庁や財務局の監視の目が行き届かず、ほぼ野放しの状態だった。

その結果として起きたのが、ビッグモーター問題だった。