欧州車を中心に日本でもようやく浸透しつつあるEV(電気自動車)ですが、2010年に世界初の量産EVとして日産初代「リーフ」が誕生したように、元々EVは日本車が先行していたという事実もあります。当時に比べて急速充電器も多く設置されてきた2024年ですが、集合住宅に住む人がEV生活を楽しむことができるのでしょうか。実際にEVオーナーになったレポーターのホンネを聞いてみます。

走行距離4.4万㎞ 12年落ちの初代「リーフ」を買ってみた

 そもそもはとある編集者のひと言がきっかけでした。

「BEV(電気自動車)のことを語るなら、一度くらいはオーナーにならないとね」と、古くから付き合いのある編集者の言葉に、ハッとなりました。

 実のところ筆者の住環境は、集合住宅&月極駐車場であり、BEVのオーナーには向いていません。しかし、BEVに関する記事を数多く手がけています。きっと、自分でも心の奥に「BEVのオーナーにもなっていないのに……」という疑念がくすぶっていたのかもしれません。そこでBEVの購入を決心したのです。

 とはいえ、今あるエンジン車の愛車を手放したくはありません。そのためセカンドカーとして格安のBEVを狙うことになりました。

 知り合いのクルマ屋さんにお願いして、オークションで探してもらったのは、平成23年式(2011年)の日産「リーフ」の「X」グレード。新車時の価格は376万4250円が、12年落ちの中古車ということで、諸経費込み50万円で、2023年の夏に僕の手元にやってきました。

 どうやら中京圏のお役所がオーナーだったような個体で、走行距離は約4.4万㎞。メーターに表示された「バッテリー容量」は12メモリのうち7。つまり、新車に対して、現状のバッテリー能力は60%程度。正味、新車は24kWhだから正味14kWhの能力を持つBEVとなります。

それから夏と冬をかけて「リーフ」を使ってみました。すると、購入前に予想していた通りのことだけでなく、予想外のこともありました。

 予想は良いことと悪いことがあります。予想通りでよかったのは、走りの良さです。

 走りは、12年落ちとはいえ、静かでスムーズでトルクフル。重心が低いので、安定感があります。速いわけではありませんが、電動車ならではの魅力がしっかりと備わっています。BEVの最大の魅力と言えるでしょう。

 次に、予想通りで悪い点です。それは航続距離。もともと12年前の新車時でも、一充電走行距離は200㎞しかありませんでした。中古になってバッテリーの能力は60%にまで低下しています。そのため、バッテリー残量計12メモリのうち11にまで充電しても、走行可能距離は84㎞(エアコンを入れると64㎞)しか表示されません。

 リアルなカーライフとしては30㎞ほど走ると充電するという使い方になりました。

 また、自宅駐車場で充電ができないので、充電は毎回、近所の日産のディーラーで行うのですが、これが予想通りに面倒くさかった。

 一充電走行距離が短いので、頻繁に充電する必要があります。充電にかかる時間はわずか30分とはいえ、忙しい時期はなかなか厳しいものがあります。また、充電中はエアコンが使えないので、真夏や真冬にクルマの中で待機するのも辛いものでした。

 ちなみに電池容量の大きいBEVでも、充電が面倒くさいというのは変わりません。充電の回数は減るかもしれないけれど、その分、1回あたりにかかる時間は増えるからです。

「自宅に充電設備がない」のはデメリットが大きい

 予想外もありました。おもに悪い方向です。

 まず、30分の急速充電で充電できる電力量が少ないということです。

充電設備のない集合住宅に住む筆者の場合、EVの所有は難しかったという。結局はもう1台のエンジン車の方を多用することになった

平均してみると、1回30分の急速充電で、4〜5kWhしか充電できません。バッテリー残量が半分以上あると、さらに少なくなります。

 バッテリー残量が70%を超えると2kWh以下となるのです。そのため満充電になることはなく、ほぼ上限8割ほどでの運用となっていました。また、メーターで見る電費は、だいたい8km/kWhだったので、4〜5kWhの電力量は走行距離でいえば32km〜40㎞に相当します。30分かけて、それしか充電できないのです。

 そして急速充電にかかる費用が高いのも予想外でした。

 10年前のBEV導入初期は、1回500円くらいだったと記憶しています。ところが、今は月額プラン+利用料と言う料金体系です。日産のプランでは月額4400円(急速充電100分込み)で、それ以降が44円/分。複数の自動車メーカーのBEVに対応するe-Mobility Powerは、月額4180円+27円/分となります。

 日産のプランであれば、4400円で3回分プラスアルファ。1回あたり、ざっくり1500円弱の計算になります。100分を超えると、30分で1320円。e-Mobility Powerなら、30分で810円ですが、そもそも月に4180円が使わなくてもかかります。月に30分で4回充電すると、あわせて7420円になります。その場合、1回分の料金は1855円になります。

 ちなみに、うちのリーフの場合、1回の充電で30〜40㎞ほどしか走れません。1回の充電にかかる費用が1320円であれば、40㎞走れるとしても、1㎞あたりの費用は33円。もしも、15㎞/lのエンジン車で160円のガソリンを使う場合は約10.7円。つまり、エンジン車より3倍ほども割高になってしまうのです。

 これは急速充電の場合、電力量ではなく、使用時間によって料金が設定されているのも理由となります。もっと大きな電力を充電できれば割安になるのですけれど、うちの12年落ちの中古車はバッテリー性能が落ちて、急速充電ができなくなっていたというわけです。

 つまり、うちの「リーフ」は、走りが良いものの、航続距離が短く、充電の電力量が少なく、そして充電の料金が高かったのです。また、充電にかかる時間と手間は、やっぱり面倒でした。

 そうとなれば、結果は誰が乗っても同じでしょう。つまり、乗らなくなります。

 どこに行くのも、「この後、充電しなくてはいけない。その時間とお金がもったいない」と、もう1台あるエンジン車を選ぶことになります。エンジン車の方が、給油時間が短いし、費用も安いのですから、当然のことでしょう。

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 こうした残念な結果になる理由は、はっきりしています。それは「自宅に充電設備がない」ということにつきます。

 逆に、自宅に充電設備があれば、結果は正反対になるはず。自宅で充電するのであれば、充電にかかる手間と時間がかかりません。普通充電なので、急速充電よりも満充電に近くなって、航続距離も伸びます。さらに充電にかかる費用も、自宅の電気料金の方が安くあがります。

 そうなれば近隣への移動は、ほとんどBEVを使おう! となることでしょう。近隣の買い物専用車として使うのなら、新車のBEV「サクラ」を買うよりも中古「リーフ」の方がお得! と判断することもできるはずです。

 そもそもBEVをセカンドカーで利用するというスタイルは、自宅に駐車場を持つ人だけの特権です。駐車場のない人は、セカンドカーを持つというだけで、駐車料金という大きな負担が増えてしまいます。

 そのため、できればクルマは1台で済ませたいもの。つまり近距離用のBEVを追加で買うということは考えにくいと言えるのではないでしょうか。

 結論として、半年かけて1台の中古BEVを買ってわかったのは、「BEVは自宅駐車場を持った人に限る」という当たり前のことでした。手間暇かけて検証してみれば、何も新しいことがなく、まったくもって残念至極です。