「SF少女マンガ全史」 [著]長山靖生

 「SF少女マンガ全史」というタイトルにいい意味で裏切られた。宇宙探検や未来の科学を主要素とした作品群の紹介を想像していたら、それだけにとどまらない。少女マンガの歴史全体を辿(たど)りつつ、それがSF文化といかに密接に関わっていたのかが示されている。
 水野英子から高野文子に至るまで膨大な作品が言及されるが、とくに萩尾望都など、著者がSF少女マンガの黄金期とみなす1970年代半ばから80年代半ばに活躍した作家の記述は多い。日本SF大賞の選考委員でもあった著者によると、筋道立った空想的設定を用いて世界の見え方を転換させる作品はSFたりうる。ゆえに通常はファンタジー作品と呼ばれる作品にも本書は目配りしている。少女マンガでは関心の高いジェンダーを扱う設定、たとえば性別移行や少年愛を含む物語がSF的想像力と親和的であったことなどにも改めて気づかされる。
 語り口は親しみやすく、ジャンルの成長と伴走してきた世代ならではの貴重な証言ともなっている。何よりSF少女マンガへの愛を感じる。