BMWの王道、3シリーズから派生したスポーツ・モデル、4シリーズのクーペ&カブリオレに乗って箱根へひとっ走り。モータージャーナリストの藤島知子は何を感じたのだろうか。
時代の一歩先をいくデザイン
BMWの偶数モデルは、奇数のコンサバなクルマづくりとは一線を画すユニークでエモーショナルなモデルになっている。なかでも、私の気持ちがいろんな意味で揺さぶられたのが『4シリーズ』だ。現行型となる2代目にフルモデルチェンジした際、縦型のキドニーグリルがあしらわれた変貌ぶりに世間がザワついた。かくいう私自身もそれまでの端正な顔立ちとは異なるルックスに違和感を覚えたが、いつの間にか見慣れている自分がいることに気がついた。
新しい時代の顔つきは斬新なインパクトを与えたが、肝心のプロポーションは美しく描かれていて、BMWらしくスポーティかつエレガントにまとめられている。それでいて、それとなく運動神経が良さそうな雰囲気を漲らせるあたりがニクい。インテリジェントでアスリート系。やり手のビジネスマンを彷彿とさせる4シリーズのモテ系オーラにやられた私は、時代の一歩先をいくデザイナーの先見性は凄いものだなと思った。
少し話を戻すと、コンサバ系の3シリーズが4枚ドアのセダンとして前席と後席の日常性とフォーマルな佇まいをバランスよく持ち合わせているのに対し、2枚ドアの4シリーズ・クーペはスタイリッシュなルーフラインとリア・ドアの設計に囚われることのない頼もしいフェンダーで構成された格別な存在。
BMWのエントリー・クーペといえば、ひとまわり小ぶりな2シリーズ・クーペも存在するが、4シリーズ・クーペは全長4775mm、全幅1850mm、全高1395mmという、日本で扱いやすいサイズに留めながらも堂々とした風格をバランスさせている。私はマンション住まいだが、平置きの駐車場を確保することが難しいいま、機械式駐車場に収まるサイズであることが車種を選ぶ上での大前提となる。
その点、4シリーズはクーペならではのスタイリッシュなデザインとスポーティな走り、2ドアでありながら、ある程度の実用性が担保された現実的な選択肢として、途端に魅力的に思えてくるのだ。
車格でいえば、5シリーズほど立派すぎず、正統派の3シリーズとも違うエモーショナルな価値を追求した4シリーズ。ボディ・タイプの選択肢が3つ用意されていることも魅力のひとつ。基本的にクーペといえば2枚ドアであることが根源にあるが、流麗なルックスと4ドアの機能性を欲張りに併せ持つグランクーペというモデルも存在する。しかし、現行型で2代目となるグランクーペは床下にバッテリーを搭載する電気自動車のi4とプラットフォームが共有されたこともあり、全高は高め。それに比べてクーペの全高は55mm低く、シルエットから純粋なスポーツ性を感じさせる。
私の好みはクローズドだが……
さて、ここで今回の企画の本題へ。4シリーズの残る2つのモデルは2ドアのクーペとカブリオレである。ズバリ言わせていただくとすれば、私の好みは、実はオープン・ボディよりもクローズド・ボディ。硬質なものに守られて走る頼もしさが感じられるし、オープンカーの華やかさと対極の硬派なイメージもあり、走りの本質を突き詰めている感じがする。何より、物事と地味に深く向き合いたい私の性に合う気がするのだ。
とはいえ、クルマは実際に触れてみないとイメージだけでは語り尽くせない魅力が備わっていたりする。まずはクローズド・ボディのクーペをチェックしてみる。ヘッドランプがフロントフェンダーの脇まで伸びるクールな表情は4シリーズに共通しているもの。モノトーンでまとめた金属製のルーフはテールエンドに向けて絞り込まれていく形状が際立ち、リア・フェンダーの頼もしさが強調されている。中でも、素敵だと思えるのがリヤビュー。低く薄く引き締まったプロポーションはいつまでも眺めていたくなるほど美しい。
後席の機能性にも注目してみたい。クーペとカブリオレの乗車定員はどちらも4名だが、クーペがカブリオレに勝る決定的な違いは、実用的に使いこなせるシート・アレンジと積載性にある。後席の背もたれは中央部にアームレストが備え付けられているほか、そこにドリンク・ホルダーが組み込まれている。また、後席左右に大人が座った状態で中央の背もたれを前に倒せば、トランク・スルーで長尺物を積める。スリムで低いシルエットのモデルでありながら、ソノ気になれば積載性は高く、臨機応変に使いこなせるところがいい。
対して、電動開閉式のソフト・トップを備えたカブリオレはどうだろう。エクステリアを見ると、基本的な顔つきは変わらないが、ソフト・トップを閉じた状態でもクーペらしいシルエットが描かれている点にコダワリを感じる。
クーペと違うのは、Bピラーが存在しないため、前席のサイド・ウインドウとリア・クォーター・ガラスが一続きになっていること。車内から外を眺めると、クーペよりも窓面積が広く、明るく感じるメリットもある。何より、カブリオレはオープン時にインテリアのコーディネートをエクステリアの一部として見られる部分もあるので、内装を自分らしく仕立てる楽しみもあるだろう。
4座のオープンカーの場合、開口部が広いぶん、風の巻き込みが気になるところだが、サイド・ウインドウを上げたり、折りたたみ式のウインド・ディフレクターをセットすれば、髪が大きく乱れにくく、快適にドライブできる。
ちなみに、ソフト・トップはラゲッジ・ルーム内の一部に格納する仕組みになっていて、オープン時はセパレーターを手動で引き出して下準備を整え、あとはシフト・セレクターの脇にあるスイッチで電動開閉できる仕組み。前席は首周りを温めるヒーターも付いているから、肌寒い季節でもオープン・トップを楽しめそうだ。
ハンドリングか、エンジンか
肝心の走りはどうだろう。クーペは直列4気筒の2リッターターボ×8段ATを搭載した後輪駆動の420iMスポーツに試乗。足元には18インチのタイヤを装着しているが、4気筒FRクーペの車重はわずか1580kg。ワインディング・ロードでは、ブレーキ後にコーナーへ進入する際、周り込んでいく車体の動きの繋がりがとてもスムーズだ。駆動は後輪に任せ、素直な操舵フィールが楽しめるところはFRならではの美点。ドライバーのわずかな操作に密に反応し、軽快で気持ちいいハンドリングを満喫させてくれたのは最高だった。
対して、カブリオレは直列6気筒ターボに8段ATを搭載し、4輪駆動のM440i xDriveに試乗。こちらは19インチのタイヤを装着。アクセルを開けていくと、豊かな動力を丁寧で優しく、滑らかに伝えていくもので、ハイスペックなエンジンでありながら、心地良いドライブ・フィールをもたらしてくれた。どちらのボディ・タイプも直4ターボのFR、または直6ターボのxDriveが設定されている点では同じだが、単にクーペとカブリオレの車重の違いを同じパワー・ユニット同士で比較してみると、カブリオレはクーペよりも140〜150kg近く重たい。それが、直4のFRクーペ(1580kg)から直6でxDriveのカブリオレ(1880kg)になると、300kg近く重たくなることもあって、後者はしっとりした乗り味を与えてくれているように感じた。
驚いたのはそれほど重さが増しているにもかかわらず、ドシンとか、ミシリとかいった不快な振動を与えないところ。オープン・ボディになっても、必要な箇所には補強を施し、しなやかな走りをもたらしていた。さらに、いまやすっかり貴重な内燃機となった直列6気筒エンジンとスポーツ牲を高めたエキゾースト音は幌を閉じていても、オープンにしている時もBMWのエンジンらしい精緻な回転フィールと胸のすくサウンドで私の気持ちを昂ぶらせてくれる。エンジン屋として世界にその魅力を知らしめてきたBMW。エンジン車がもつリズムと抑揚を最大限に満喫する上で、オープン・モデルとの相性は抜群なのだなと気づかせてくれた。
クーペかオープンか。私自身のクルマ選びで譲れないポイントは、第一にデザインが自分の感性を揺るがす感動を与えてくれるものであること。その次は乗り味で、クルマと意思疎通しながらドライブする充実感に浸らせてくれること。そうした観点をもって、改めて今回の4シリーズのドライブを振り返ってみると、やはりクーペは期待通りの素晴らしい出来映えだった。金属の剛体に包まれた骨格はクルマと“密”に対話して走る悦びを与えてくれるものであったし、軽快に走れる4気筒のFRは素直なハンドリングが満喫できる点で最高に楽しませてくれたし、いつまでもこのクルマで走っていたい気持ちにさせてくれた。
とはいえ、試乗を通じて意外性を感じたのは4シリーズ・カブリオレの方だった。オープン・ボディは華やかさを演出できる一方で、桜が咲き始める季節に春の息吹を間近に感じることができたし、幌を閉じて走る時は金属製のルーフでは遮られているはずの音色を透過させて、むしろBMWを走らせている充実感を与えてくれた。世の中のクルマは電動化に向けて舵を切り始めているが、いまこうした時代だからこそ、BMWの内燃機がもつ魅力を最大限に味わい尽くすのであれば、むしろカブリオレという選択もいいのかもしれない。固定観念に縛られるよりも、冒険をしてみたほうがこれまで自分では気づかなかった何かに出会えるのかも知れないと思った。
文=藤島知子 写真=茂呂幸正
(ENGINE2024年6月号)
モータージャーナリストの藤島知子がBMW 420iクーペとM440iカブリオレを乗り比べ! あふれ出るモテ系オーラ好きのあなたは、オープン派? それともクーペ派?
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