56歳で契約社員に

そんな明子さんですが、実は昨年、フリーランスの傍ら、約30年ぶりに会社勤めを始めました。

きっかけはコロナでした。対面取材の仕事がなくなり、会議もオンラインになりました。「職人ライター」として、求められるものを仕上げる腕には自信を持っていましたが、コロナ後は編集部とのやりとりも一方通行になりがち。「やっぱり、みんなでわいわいモノを作るのが楽しい。そういう現場をもう一度経験したい」と、転職サイトで見つけた媒体の編集部に応募しました。業務委託でも十分と思っていたのに、正社員前提の契約社員として入社しました。

応募時は56歳。「もうこの年齢なので、まさか受かるとは思っていなかったんで、びっくり。しかも正社員だなんて」。これまでの職歴や経験がものを言ったのでしょう。

実は、その前まで、明子さんは仕事をセーブする「減速モード」でした。両親を亡くした後、かつてのようにバリバリ仕事をする気になれず、あまり仕事を入れていませんでした。もう年収200万円でいいか、といった気分だったそうです。明子さんは自覚していませんが、モトザワには、父母を亡くしたことによる鬱状態だったように見えます。

会社勤めに復帰したことで、明子さんには変化が起きました。まだ試用期間ですが、フリーランスと違って、物理的にも精神的にも会社に縛られます。10時〜18時の就業時間中はじっと職場にいなくてはいけません。上司との齟齬や軋轢もあります。ストレスから一時期は鬱っぽくなりました。ただ、その反動で、久しぶりにフリーランスとしての仕事も受けてみました。すると、すっきり。「仕事のストレスは仕事でしか解消できません」。仕事が明子さんにエネルギーを与えてくれました。最近、ようやく、当初の目標通り、「みんなと一緒に雑誌を作る」態勢が、会社で整いました。「いま、すごい楽しいです」


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