回転寿司大手「くら寿司」(本部:大阪府堺市)の公式YouTubeチャンネル『くら寿司 178イナバニュース』が、登録者数が13万人を突破し、うなぎのぼりで人気になっている。今回はそんな同チャンネルを企画し、自ら出演する社員ユーチューバーを取材した。

◆ 出合いは19歳で始めた「アルバイト」

同チャンネルが誕生したのは2020年元旦。「新年明けましておめでとうございます」と、日の出ならぬおじさんの丸い頭が上がってくるところからスタートした動画に、「心から応援しています」「かわいい笑」「(笑)?」などのコメントが寄せられている。

実はこのおじさんは、チャンネルの企画者でもある社員の稲葉亘平さん(47歳)。稲葉さんは、19歳のときに「くら寿司」でアルバイトを始めてそのまま社員になる。その後、店長などを経験したのちに販売促進部に配属され、公式ユーチューバーの道が開かれたのだが・・・。

スタートしてから2年以上は苦戦した。登録者数が6000人から伸びず、目標には程遠く自信がなくなっていた時期に、「これでダメなら何をしてもダメなのではないか」と思いながら出したショート動画『くら寿司 お皿の行方』が爆発的に見られて、チャンネルが急成長。

お店の裏側を見せるこの動画は、テーブル横の投入口に入れたお皿とともに、裏の水路をどんぶらこと流れていく動画で、「皿目線になれるの斬新すぎて草」「永遠に知ることの出来ない夢の領域だと思ってました」などと1万以上のコメントが寄せられている。動画は現在も視聴され続けており、再生回数は3654万回を超えた。

Q. 稲葉さんは一体どんな人?インタビューを実施

──正直に言うと、最初は「丸顔の黒縁メガネのおじさんが出てきた!」って思いました。すみません(笑)。

もともと動画に出るのは嫌じゃなかったですし、基本的にやるんだったら自分が出て、自分が出るのであればどういう風にするか?と、考えていました。自分が出ないのなら携わらなくてもいい、初めからそのくらいの勢いでしたね。

──そうだったのですね。動画が人気な理由には、クセになりそうな陽気なキャラクター性、そして稲葉さんからにじみ出る強烈な「くら寿司愛」だと思うんです。

愛と感じていただけているなら、ありがとうございます。アルバイトのときから「寿司がうまい」とずっと思っていて、「ここの回転寿司やったら大丈夫」と、確信したあとに就職しているので。今でも実際に動画撮影で食べると「うまっ!」ってなるんですよ。本当においしいからそうなるので、自信を持って動画が撮れる。そこが強みだと思っています。

──アルバイト時代から働いているからこそ作れる動画もありそうですね。特にチャンネルがバズるきっかけになった『お皿の行方』などはまさに。

確かに、店舗にいたというのは大きいですね。店のなかで感じることや内部の仕組みを分かっているからこそできる企画はあるとおもいます。アルバイトから入社して、まず時間帯責任者をさせてもらってから店長職を経験し、その次にクリンネスのインスペクターを担当して、その後また店長をやらせてもらいました。そこから広報ですね。でも、お店にいたときはユーチューバーになるなんて考えたことなかったですよ(笑)。

◆「当時、知っていたのはヒカキンさんだけ」

──では、なにがきっかけで動画をやるように?

最初は動画というよりも販売促進部だったので、チラシやお店の販促物をメインに担当させてもらっていたんです。でも関東にいたということもあり、CMの撮影に行く機会も多かったんですよ。

そういうところに行っているうちに、映像がどういう風に撮影されているのか? とか、商品の撮り方を見ているなかで、「私ならこういう風にするかもな」と思い始めたんです。でも変に口出しはできないから、試しにサンプルの動画を作って、見てもらったのがきっかけですね。

──チャンネルを立ち上げた頃は、YouTubeをよく見ていたのですか?

いや、まったく見たことなかったです。当時YouTubeを始めるってなったときに知っていたのはヒカキンさんだけです。でもヒカキンさんの動画は見たことなかったです。その凄さもわかってなかったですね。

──ということは、始めることになったときはどんな動画を参考に?

どちらかと言うと動画は見てないです。見たら自分が思っているものができないと思ったので。当時はすでに「こうやったら面白いんちゃう?」というのを思いついていたので、参考にするのではなく、自分のなかのアイデアを「どうするか」でしたね。

今も撮影するときは、自分のなかにある引き出しから、パッと出てきたものを使っている。思いつかなかったら何も出てこないです。あ、でも最近はかなりYouTubeを見てますよ。「この人すげー!」って思うようになったので、パワーアップしたのかもしれないです(笑)。

◆ コメントには自ら返信、バズ企画の「極意」

──商品を使ったアレンジ動画も人気ですね。

SNSで「くら寿司」の人気アレンジみたいなのがあって、これは発信しないわけにはいかないと思って始めました。それが人気になってくると、次は「こんなんうまかったで」ってコメントが結構来るようになって。良さそうなものをカテゴリに分けてまとめて出したり、私が考えたアレンジを追加したりして出しています。

──「赤だしのサーモンじゃぶじゃぶ」や「チャンジャ納豆」といった独創的なアレンジメニューも、元はコメントがきっかけだったんですね。

コミュニケーションから企画が成り立っている部分は大きいですね。はっきり言って私はアレンジをやらないんですよ。そのままが好きなんです。でもいろいろやると、世界が広がっていく。

コメントにも「うどんに甘ダレや七味入れたらおいしいで」といったある程度イメージのつくものから、ぶっ飛んだものまで来るので、そのなかで面白いなと思ったものは「やってみます」と返信して、実際に取り上げたら、視聴者の方が喜んでくれるんです。

──え、稲葉さん自らがコメントに返信されているのですか?

全部私がかえしています。かなりの数をかえしているので、件数が多くなると時間がかかります。

──そうして、また視聴者のコメントも盛り上がるという。稲葉さんが考えた企画がNGになることもあるのでしょうか。

公開直前でNGもあります。バズる動画は結構パッパッと頭に浮かぶんです。でも、一時的に流行って廃れるのは嫌。あと炎上するわけにはいかないので、見て楽しんでもらえる範囲で、できるだけ過激じゃなくても行ける道を進めればと思いますね。

──企業チャンネルですから続けることも目標だと思いますが、稲葉さんが目指しているゴールも教えてください。

目標は登録者数100万人。だいぶ大きな目標ですね。次の段階としては海外に積極的に店舗を出店している「くら寿司」なので、海外でも見られるようにしていきたいです。でも、これまでと同じやり方やったら難しいというのはわかっているので、なかなか手強いです。

実は動画の裏では「トークがあまり得意ではない」と言う稲葉さん。インタビューを終えたあとには「大丈夫でしたか?」と、自身のパフォーマンスを気にする場面もあったが、取材班からは「完璧でした」と称賛の一言。「くら寿司」が大好きだという社員ユーチューバーがこのチャンネル、そして「くら寿司」をどこまで成長させるのか今後も目が離せない。

取材・文・写真/太田浩子