恋人や結婚相手を探す手段として浸透した「マッチングアプリ」。

接点のない人とオンラインで簡単につながることができる。

そう、出会うまでは早い。だけど…その先の恋愛までもが簡単になったわけじゃない。

理想と現実のギャップに苦しんだり、気になった相手に好かれなかったり――。

私の、僕の、どこがダメだったのだろうか?その答えを探しにいこう。

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Episode11【Q】:山崎 健介(30)
恋愛にはタイミングが全てなのか?


― これは、運命だろうか?

マッチングアプリで出会い、すぐに意気投合したものの、なかなか会えずにいた舞子。

その彼女が、目の前にいる。

虎ノ門にあるお気に入りのBAR。思いつきで寄ってみたのだが、そんな自分が素晴らしい、とさえ思った。

「あの…違ったらすみません、舞子さんですか?」

彼女もひとりで来ている。

僕は、勇気を出して声をかけた。

「あ!健介くん?アプリの」
「そう!!まさか、ここで会えるなんてね。ひとり?一緒に飲もうよ!」

― きっと舞子も喜んでくれるはず…!

しかし、偶然の出会いに感動していたのは、僕だけだったようだ。

舞子は申し訳なさそうに顔を横に振った。



多忙な彼女


舞子は、外資系金融機関のトレーダーで六本木在住。

僕は、大手シンクタンクに勤めていて、麻布十番に住んでいる。

アプリを通じて出会ったのは、先月。

僕たちはすぐに、気軽に連絡をし合う仲になった。

まだ会ったことはないのに、連絡を取りたい頻度や時間帯が似ていて、まるで昔から知っているような不思議な感覚に陥る。

『舞子:やっと仕事が終わりました。疲れた〜』

この日も、いつものように仕事終わりに舞子から連絡がきた。

お互い激務なため、励まし合う同志のような関係になっているのだ。

でも、もちろん僕は、女性として舞子を見ているし、早く会いたい。



『健介:おつかれさま。実は僕も、さっき会社出たところ。飲み行っちゃう?笑』

『舞子:行きたいんだけど、これから先輩と飲みに行かなきゃで><』

『健介:そっか。じゃあ、また行けそうな日教えてね』

しかし、なかなか会う日が決まらなかった。

前もって約束するよりも、その日に行けたら行こうと話していたのだが、それも難しかった。

会わない時間が長くなればなるほど、頭の中の舞子の存在が大きくなる。

会いたいのに会えない状況が、そうさせているのだろう。

僕はトボトボと帰宅し、デリバリーで中華を頼んで缶ビールと共に胃に流し込んだ。

― 舞子…どんな子なんだろう。

前の彼女と別れて、もう4年が経った。

そうなると、「独りサイコ〜!」と感じていた時期はとっくに過ぎ、今はひたすら寂しい。

テレビを流し見しながら、スマホを触っていると、舞子からメッセージが届いた。

『舞子:来週の土曜とか空いてないかな?』

― そうか、その手があった…!

どうして僕は平日の夜に会うことにこだわっていたのだろう。

いくら激務といえども、僕も舞子も土日まで働かせるブラック企業にいるわけじゃない。

休みの日に会えばいいのだ。

しかし…。



すれ違い


僕はスマホのスケジュールを見て、肩を落とした。

『健介:ごめん、その日は友達の結婚式だ。日曜日は?』

『舞子:そうなのね。日曜日は、姉の子どもを見ることになってて、、』

― 最悪だ。

『健介:僕ら、本当に予定が合わないね。笑』

そう送った後、舞子からスタンプが送られてきて、会話は終了してしまった。

翌日もそのまた翌日も、僕は舞子に連絡をしなかった。

すっかりテンションが下がってしまったのだ。

舞子からメッセージが届くこともなく、彼女と知り合う前の日常が過ぎていった。



けれど、僕は恋人を作ることを諦めたわけじゃない。

マッチングアプリを引き続き活用し、何人かの女の子にも会った。

「はじめまして、優花です」
「どうも。健介です」

舞子とは、あんなに会うのが難しかったのに、他の人とは簡単に会えるから拍子抜けした。

しかし、その気軽さのせいなのか、誰にも心が惹かれない。

「このあと、どうします?」

虎ノ門横丁で食事したあと、優花という年下の女性が僕に聞いた。

容姿は悪くないし、性格もよさそうだ。

「ごめん、先輩に呼ばれてるんだ…今日はありがとうね」

けれど、僕は優花を2軒目に誘うことをせず、嘘くさい言い訳をした。

時刻は22時。この時間に帰っても、どうせ部屋で飲み直すことになる。

僕は、東京エディション虎ノ門の1階にある『Gold Bar at EDITION』で一杯飲んで帰ることにした。



ここは、東京で一番好きなBARで、いつか恋人を連れてきたい場所No.1だ。

だから驚いた。

カウンター席に、舞子を見つけたときは。

可愛いとか綺麗だとか思うよりも前に、会えた嬉しさが勝った。

恋愛はタイミングだ。

それが合わずに、連絡が途絶えた僕らだったが、偶然に出会えた。

これこそ、今から恋が始まるタイミングじゃないだろうか。

僕はドキドキしながら、舞子に声をかけた。

「あの…違ったらすみません、舞子さんですか?」
「あ!健介くん?アプリの」
「そう!!まさか、ここで会えるなんてね。ひとり?一緒に飲もうよ!」

― あ〜、やっぱり舞子だ。やっと会えた!

僕は、密かに感動していた。

簡単に出会えなかったから尚更、嬉しいのだ。

しかし、彼女はひとりじゃなかった。友達と来ていたのだ。

その友達は、化粧室に行っているという。

「そっか。じゃあまた今度、ここで会えるかな?」

ここは深夜までやっている。仕事が終わるのが遅い舞子とでも、ここでなら会えるだろう。

「う〜ん、ごめん…」

しかし、僕のテンションとは裏腹に彼女は申し訳なさそうに言った。

一時期は、毎日のようにメッセージのやりとりをして、お互いが日常の一部だった。

それなのに、舞子は僕を拒んだ。

その理由がわからないまま、僕は離れた席で、山崎12年をロックで注文した。

この一杯を飲んだら、舞子のことも忘れようと心に決めて。


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舞子が健介にもう会えないと言った理由