燃費もよくて大トルクならレースで有利……じゃないの? ディーゼルエンジンのレーシングカーが「ほぼ存在しない」ワケ

この記事をまとめると

◾️ディーゼルエンジン搭載のレーシングカーは少数派だ

◾️レースをするうえでディーゼルエンジンは構造上の理由からメリットが少ない

◾️ルール次第だがディーゼルエンジンのレーシングカーが登場する可能性は今後も低い

ディーゼルがレーシングカーに向かない理由とは

 圧縮比が高く、熱効率が優れ燃費のいいディーゼルエンジン。トルクが大きく実用的で、プラグなど点火装置が不要なのでメンテナンス面でもメリットがあるため、商用車用として普及しているが、スポーツカーやレーシングカーではかなり少数派だ。

 とはいえル・マン24時間レースでは、アウディが2006〜2008年までディーゼルエンジン搭載車で3連覇を達成しているし、2009年にはプジョーもディーゼルエンジン車で優勝しているので、速いディーゼルエンジン車を作れないというわけではない(この時期のル・マンでは、ディーゼルエンジンが有利なレギュレーションだったこともある。その後、ル・マンではハイブリッド車が主役になって、現在に至る)。

 ではなぜディーゼルエンジンのレースカーは普及しないのか? それにはいくつか理由が考えられる。

 まず、ディーゼルエンジンは高温高圧の空気中に燃料を噴射し自然発火させるのが特徴で、燃焼室に噴射された燃料が気化するまで時間がかかり、高回転化が苦手。圧縮比が高いのでトルクは大きいが、回転数が稼げないので最高出力の上限は低い。これはレーシングカーには向いていない。

 また、空気の温度を上げて燃料をよく燃やすには、圧縮比を高めることが必要。ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンのおおよそ2倍の圧縮比に設計するが、高圧縮・高膨張力に耐えるには、エンジンを丈夫に作る必要があり、結果としてエンジン単体がかなり重たくなる。これもレーシングカーにはデメリット。

 また、「ピストンなどの運動部も丈夫」=「慣性質量が大きい」ため、レスポンスが悪く、振動、騒音も大きくならざるを得ない。

 さらに、ディーゼルエンジンにはスロットルバルブがない。ガソリンエンジンは加減速を吸入空気量の変化で調整するが、ディーゼルエンジンの場合、吸入空気量は変わらず燃料の噴射量だけで出力を調整する。当然、官能的な吸気音は期待できない。

 これらの理由で、レーシングカーやスポーツカーでは、ディーゼルエンジンが好まれないようだ。

 もっとも、ディーゼルエンジンでも低圧縮化を進めれば、エンジン本体も軽くできるし、高回転化も不可能ではない。とはいえ、それではディーゼルエンジンのメリットも薄れるわけで……。

 そういった意味で、今後ディーゼルエンジンのレーシングカーが普及するかどうかは、レギュレーション次第といえる。かつてのル・マンのようにディーゼルエンジン有利のルールになれば、レース用のディーゼルエンジンを開発するメーカーも増えるだろうが、今後のレース界は、カーボンニュートラル燃料やハイブリッド車にシフトしていく方向になりそうなので、ディーゼルエンジンレーシングの時代はなかなか到来しそうもないのが現状だ。