厚生労働省によると、日本における細菌性食中毒の中で近年、もっとも多く報告されているのが、カンピロバクターによる食中毒です。カンピロバクター食中毒の主な原因と推定される食品、または感染源として、生の状態や加熱不足の鶏肉、調理中の取り扱い不備による二次汚染などがあげられています。症状は、下痢、腹痛、発熱、悪心、嘔気、嘔吐、頭痛、悪寒、倦怠感などで、多くの患者は1週間ほどで治癒します。一般に、細菌性食中毒の発生は、気温と湿度が高くなる夏場に多いとされます。一方で、カンピロバクター感染症は、年間を通して、発生が報告されており、注意が必要な感染症です。
今回は、カンピロバクターによる感染症で、親娘で大変な思いをした経験談をご紹介します。

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カンピロバクター経験談 53歳 兵庫県

4月27(土) 22歳の娘と仕事帰りに焼き鳥店に行く。鶏刺し盛り合わせ(ささみ、レバーとあと何か一種類)美味しくて完食。
5月1(水)大学に行った娘から「お腹が痛くて駅のトイレから出られない」とLINEがくる。途中の駅で下車(トイレ)しながら最寄駅まで帰ってきたのを車で迎えに行きすぐ病院に連れて行く。娘は医師におととい友人と食べた焼肉のことを話し医師からもそれが原因の食中毒だろうと言われ薬をもらって帰宅。この日の午後から私もお腹が痛くなり水下痢になった。関節も痛くなり夜には38度の熱。娘も37度台の発熱。そこで原因は焼肉ではなく鶏刺しではないかと疑う。
5月2日(木)持病の病院の予約をしていたので今の状態を診てもらうとカンピロバクターで間違いないと思う、と言われた。薬をもらって帰宅。帰宅後39.8度まで熱が上がり、体が痛くてたまらなかった。ロキソニンを飲む。
水下痢(緑色)も続いているので食欲はないが水分補給だけはしっかりとった。幸い胃のむかつきはあるが嘔吐することはなかった(娘も同じく)
5月3日(金)38度台から午後になって37度台にさがってきた。身体もだいぶ楽になってきたが水下痢は相変わらず。食べた後お腹が痛くなりすぐトイレに行きたくなる状態。
5月4日(土)36.8に下がった。下痢はまだ水下痢だがちょっとだけよくなってるような感じがした。まだ完治ではないがピークは超えた感じがする。カンピロバクターに感染するこんなに苦しいとは思わなかったし後にギラン・バレー症候群になる人もいるらしいので怖いです。

感染症に詳しい医師は…

感染症に詳しい大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長の安井良則医師は「お寄せ頂いた経験談は、カンピロバクター感染症疑いとのことですが、症状を拝見し、つらかっただろうなと思います。お大事にしてください。今回の経験談も、実際に、診察したわけではないので、分からない部分が多くあります。処方された薬の内容がよく分かりませんが、解熱鎮痛剤のみの服用は、お勧めできません。便培養検査は、時間がかかるため、その間に症状が治まる場合もありますが、一般に、カンピロバクター感染症の場合は、第一選択とされるマクライド系の抗菌薬を処方してもらい、服用することが大切です。また、カンピロバクター感染症の主な原因とされる鶏肉を生や半生、加熱不足の状態で食べるのは、危険です。投稿頂いた方も、ご指摘されていますが、症状が回復した後、しばらくして『ギラン・バレー症候群』を発症することもあります。ギラン・バレー症候群にかかると、手足のしびれや麻痺が起こります。ある日、脚からしびれ、突然、立てなくなるケースがあり、再発の可能性もあります。カンピロバクター感染症の症状が回復してからも、しばらくは注意が必要でしょう。私自身が目にした症例は、足先から始まった痺れが、だんだん上半身に向け広がり、呼吸状態に影響を及ぼしたと言うものでした。入院も必要になりますし、日常生活にも支障をきたす恐れがあります。私は、絶対に食べません」としています。

感染経路

食中毒集団発生で原因食品が判明した事例では、肉類が最も多く、大半は鶏肉およびその内臓肉です。一方、牛レバーの生食による例も見られます。しかし実際の食中毒事例では、少数菌でも感染が成立すること、潜伏期間が比較的長いこと、通常大気中では死滅しやすいことなどの理由から感染源の特定は極めて困難です。その他に、ペットからや、乳幼児収容施設での流行など、ヒト‐ヒト感染、井戸水、湧水および簡易水道水を感染源とした水系感染事例もあります。海外での旅行者下痢症の原因ともなります。

症状

主な症状は胃腸炎で、潜伏期間が2〜5日間と他の胃腸炎よりやや長いことが特徴です。汚染食品中ではあまり菌が増殖せず、かつ少量の菌数でも発症するため、潜伏期間が長くなるのは摂取菌数の差によると考えられています。症状は下痢、腹痛、発熱、悪心、嘔吐、頭痛、悪寒、倦怠感などであり、他の感染型細菌性食中毒と酷似していますが、カンピロバクターは1日最高便回数が多く、血便を伴う比率も高いことが特徴です。発熱を伴うことが多く、改善病日でみるとカンピロバクターはサルモネラと比較して早く回復します。胃腸炎の局所合併症として胆嚢炎、膵炎腹膜炎などがあります。まれですが腸管外感染として菌血症、髄膜炎などがあります。

予後

一般的な予後は、一部の免疫不全患者を除いて死亡例も無く、良好な経過をとります。しかし、近年感染後1〜3週間(中位数:10日間)を経てギラン・バレー症候群(GBS)を発症する事例が知られてきました。GBSの罹患率は諸外国でのデータでは、人口10万人当たり1〜2人とされています。日本での発生状況については報告システムがなく実数は不明ですが、年間2,000人前後の患者発生があるものと推定されています。カンピロバクター感染症に後発するGBSはこれまで散発例として確認されてきましたが、1999年12月東京都において、カンピロバクター集団食中毒患者19名中、1名のGBS患者の発生が確認されました。

治療

一部の免疫不全者を除き予後は良好で、軽症例では抗菌薬治療なしでも自然に軽快することも多くあります。急性腹症、他の原因による急性胃腸炎、食中毒などと見分けながら食事療法、脱水の予防・治療などを行います。整腸剤は投与しますが、腸管蠕動(ぜんどう)を抑制するような薬剤は使用しないのが原則です。感染性は下痢急性期に高く、2〜3週間排菌が持続しますが、有効な抗菌薬が投与されると排菌期間が短縮され、2〜3日で感染性が失われます。

予防

カンピロバクターは、低温環境下で、より長時間生存できるため、冷蔵庫を過信してはいけません。加熱には弱いので、食品の正しい加熱調理に努めるとともに、調理などの過程で他の生鮮食品や調理器具の汚染に注意しましょう。鶏肉などを取り扱う場合は調理する人の手洗い、まな板などの調理器具を清潔に保ちましょう。特に乳幼児には鶏刺し、砂ずり刺し、牛レバー刺しなどの生食はさせないようにすることが重要です。食中毒が疑われる場合には、24時間以内に最寄りの保健所に届け出ましょう。

まとめ

カンピロバクターは牛や豚、鶏、猫や犬などの腸の中にいる細菌で、この細菌が付着した肉を生で食べたり、加熱不十分の状態で食べることによって、食中毒を発症します。家庭で調理する時はもちろん、飲食店で提供されるからといって安心してはいけません。特に鶏肉の生焼けや生食は避け、じゅうぶんに加熱されたものを食べましょう。市販の鶏肉からも、カンピロバクターが高い割合(厚生労働省によると20~100%)で検出されることがわかっています。家庭で調理する際は、中心部を75℃で1分以上加熱することを目安に、表面だけでなく、中心まで完全に白くなっていることを確認してから食べるようにしましょう。一部分でも赤みが残っている場合は、必ず再加熱し、そのまま食べるようなことは決してしないでください。また、調理前は必ず手を洗い、サラダなど生で食べる食材とは別に調理するなど、二次汚染を防止しましょう。

引用
国立感染症研究所「カンピロバクター感染症とは」

取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏